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TORENDIA

あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)

本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

アメリカ滞在中の体験に基づく「美しき月夜」や、偶然が人生に与える影響を綴る「顔」などを収める。無産派文学運動が擡頭し、旧来の文学が岐路に立つ中で、自身の長篇「伸子」と平行して執筆された「小村淡彩」「一太と母」「帆」「街」といった作品群の成立背景を記す。執筆当時の文学状況や無産派文学運動に対する自身の困惑と考察を明かし、社会の変革期における文学のあり方を論じる。一九四七年に記された選集第三巻のあとがきである。

宮本百合子

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🎧 あとがき(『宮本百合子選集』第三巻) / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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「美しき月夜」は一九一九年の夏アメリカのレーク・ジョウジという湖畔に暮したころに書かれた。この作品は、われわれの人生に災難という形であらわれる偶然の力につよく印象づけられたことがあって、それが題材にされた。それから数年後に書かれた「顔」も、またちがった意味で偶然が人生に与える影響ということについて深く動かされたためであった。南ドイツであったかある地方に毎年キリスト受難劇が行われる習慣があり、その年主役キリストを演じる農民の写真が当時の新聞にのった。世間で偉いと思われている人物とそっくりの顔立ちに生れついているなどという偶然は、ある種の人間にとって、何と皮肉で腹立たしいことだろう。不肖の息子が、顔立ちばかりは卓越していた父親そっくりであるという自然の冷厳なしきうつしとともに。不幸にもキリストなどに似て生れたことが、ほんとにその男のその男らしい生きかたに、どんな作用も及ぼさないとは思えない。自分というものを、外形の偶然からきめられる、丁度境遇の偶然で、自分の生きかたをきめられる場合が多いように。

「顔」は、様々な偶然とそれに対して自主的であるはずの自分の生涯という問題にふれている。しかしこの作品の範囲では、少年である主人公が、厄介な偶然を自覚して苦しみを感じはじめるこころまでがかかれた。

「我に叛く」は、その後にかかれた長篇「伸子」の短く途絶えた序曲のような性質をもっている。あるいは、嵐がおそって来る前の稲妻の閃きのような。「白い蚊帳」は時期から云えば「我に叛く」より数年あとになるが、これも或る意味では「伸子」に添えてよまれるべき性質の作品と云える。

「伊太利亜の古陶」には、上流社会ずきの中流人の諷刺がある。中流といっても「牡丹」に描かれたような日かげの、あわれはかない人々の人生の姿もある。「牡丹」は、駒沢の奥のひっそりした分譲地の借家に暮していたころ、その分譲地のいくつかの小道をへだてたところにある一つの瀟洒たる家におこったことであった。

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