花のたより
本文約6,300字 ・ 読了時間 約13分
あらすじ(AIが作成しました)
東郷元帥の孫娘である良子嬢が、浅草のカフェーで女給として働いた出来事を軸に、日本の貴族階級の生活実態や封建的な家庭環境を論じる。著名な一族ゆえに個人の自由が制限される若者の苦痛や、当時の社会状況がもたらす閉塞感を描き出す。さらに、竹内茂代の体格分類統計への批判を通じ、特定の階級や職業を固定化する社会通念の歪みを指摘し、社会機構そのもののあり方を問うていく。
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シルビア・シドニーが一人二役を見せどころとして主演した「三日姫君」という映画があった。外債募集のためアメリカへやって来た何とかいう世界地図にものっていないような弱小国の麗わしい姫が、ニューヨークへついて間もなくオタフク風にとりつかれてしまったので、その身代りを瓜二つな容姿をもった一人の貧乏で悧※[#「りっしんべん+發」、読みは「はつ」、570-16]な失業女優がつとめて、終りには目出度大新聞の若い社主と結婚するという筋であった。
最近日本では、その筋書とは逆な侯爵令嬢の十七日女給ということが、現実の社会で行われた。その侯爵令嬢が、ほかならぬ故東郷元帥の孫娘であったことは、世間の視聴をそばだてしめた。
良子嬢が、浅草のカフェー・ジェーエルで、味噌汁をかけた飯を立ち食いしつつも朗らかに附近のあんちゃん連にサービスし人気の焦点にあったという新聞記事をよんで、一般の人々はどんな感想を抱いたであろうか。
所謂名流家庭の親たちの中では駭然として或る恐怖を感じたひとびともあったであろう。好奇心に驚きの混った感情で、忽ち話題の中心とした令嬢らの夥しい数があったであろうことも、女子学習院という貴族の女学校に良子さんが籍をおいていた以上想像されることである。あの記事で、これはありつけるぞととりいそぎ紋付袴を一着に及んだ人相よからぬ職業的一団のあったことも時節柄明らかである。
今月の雑誌は、引つづき世間の興味をうけついで何かの形で東郷侯令嬢の女給ぶりを記事にしているのである。或る読売雑誌には、かっちゃんと呼んで断髪兵児帯姿の良子嬢をはったあんちゃんの一人が、いかにも町の若者らしい情感をもってかっちゃんがそこいらの女給などは夢にも知らぬカメラの話、ヨットの話、華美な夏の鎌倉の遊楽生活を話したりするをきいて、映画的憧れ心を強く刺戟されたことを物語っている。この若い男の結論も、やっぱりどこかちがっていた、というので、醒めての今はボーとなった何かお伽噺めいた印象を読者の心に注いでいる。