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TORENDIA

きのふけふの草花

本文約3,200字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

石竹や眼皮、ムシトリナデシコ、パースレイ、ダーリヤといった草花について、その由来や名称の語源、古今の伝承や故事を綴る。著者自らの家庭に咲く様子を交えながら、和漢の古典や西洋の文献から得た知識を紐解き、植物にまつわる風俗や歴史的背景、そして植物名の誤解について論じる。科学的な分類学の見地と、独自の博識に基づく考察を並記し、植物という存在を多角的な視点から照らし出す内容である。

南方熊楠

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🎧 きのふけふの草花 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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今年は気候不順でさきおくれた花が多く、又、秋開く花が初夏から盛りをるのもあるが、兎に角自分の家庭には石竹科の花がいと多く咲き乱れをる。その中で一番妙な伝説をもつのは眼皮だ。枕の草紙に、かにひ(異本にがむひ)の花とあるはこれらしいが、色は濃からねど藤の花にいとよくにて、春秋と二度さくいとをかしとは眼皮と違ふ。達磨大師九年面壁の時、眠くてならぬから自分で上下のまぶたを切つて捨てた処に翌朝この草がはえあつた、花が肉色でまぶたの様だつたので、眼皮と名づけたと、和漢三才図会に俗伝をのせある。

石竹を仏語でアレ(小さい目)、英語でピンク(細目でまたゝく)と呼ぶのも、花びらが肉色で端の歯が長くて細目のマツゲの体ゆゑの名といふ。和漢三才図会出板の少し前に、本邦へきたケムペルの外国見聞録には、達磨が切捨たまぶたからはえた植物の葉を用ふると眠くなくなつた、その葉のヘリにマツゲ様の歯ありてマブタに似をる、是が茶の初まりだと日本で聞いたと、存分人を茶にした話を記す。

オランダ石竹

英語でカーネイションといふは肉色の義で、その花の色によると説くが、本はコロネイションといつたので、昔、花冠にしたから冠といふ意味が正しき由。花の香が丁子の様だからイタリーでジロフリエル、英国で中世ジロフル、共に丁子花の義だ。チョーサーの詩などにある通り、十四世紀頃専ら酒を匂はし、又、料理にも高価の丁子に代用した。この花の砂糖漬は非常な強壮剤で、時々食へば心臓を安んじ、又熱疫を治すといふ。イタリーの百姓、これを熱愛の象とし、彼得尊者特に好むとて、その忌日(六月廿九日)をカーネーション日と称ふ。

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