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TORENDIA

縁結び

本文約17,000字 ・ 読了時間 約35分

あらすじ(AIが作成しました)

旅館で朝寝をしていた清川謙造のもとへ、一人の芸妓・お君が訪れる。かつて両親の知人であった謙造は、身寄りがなく両親の墓所も知らないという彼女の境遇に深く同情する。謙造は、自身の親の墓がある場所へ案内し、そこにお君の母の記念があることを告げる。位牌堂で母親との追憶を語り合い、亡き親を慕う彼女の孤独な心に寄り添いながら、不思議な気配と共に深い縁と繋がりを二人で見出していく過程を描く。

泉鏡花

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一

襖を開けて、旅館の女中が、

「旦那、」

と上調子の尻上りに云って、坐りもやらず莞爾と笑いかける。

「用かい。」

とこの八畳で応じたのは三十ばかりの品のいい男で、紺の勝った糸織の大名縞の袷に、浴衣を襲ねたは、今しがた湯から上ったので、それなりではちと薄ら寒し、着換えるも面倒なりで、乱箱に畳んであった着物を無造作に引摺出して、上着だけ引剥いで着込んだ証拠に、襦袢も羽織も床の間を辷って、坐蒲団の傍まで散々のしだらなさ。帯もぐるぐる巻き、胡坐で火鉢に頬杖して、当日の東雲御覧という、ちょっと変った題の、土地の新聞を読んでいた。

その二の面の二段目から三段へかけて出ている、清川謙造氏講演、とあるのがこの人物である。

たとい地方でも何でも、新聞は早朝に出る。その東雲御覧を、今やこれ午後二時。さるにても朝寝のほど、昨日のその講演会の帰途のほども量られる。

「お客様でございますよう。」

と女中は思入たっぷりの取次を、ちっとも先方気が着かずで、つい通りの返事をされたもどかしさに、声で威して甲走る。

吃驚して、ひょいと顔を上げると、横合から硝子窓へ照々と当る日が、片頬へかっと射したので、ぱちぱちと瞬いた。

「そんなに吃驚なさいませんでもようございます。」

となおさら可笑がる。

謙造は一向真面目で、

「何という人だ。名札はあるかい。」

「いいえ、名札なんか用りません。誰も知らないもののない方でございます。ほほほ、」

「そりゃ知らないもののない人かも知れんがね、よそから来た私にゃ、名を聞かなくっちゃ分らんじゃないか、どなただよ。」

と眉を顰める。

「そんな顔をなすったってようございます。ちっとも恐くはありませんわ。今にすぐにニヤニヤとお笑いなさろうと思って。昨夜あんなに晩うくお帰りなさいました癖に、」

「いや、」

と謙造は片頬を撫でて、

「まあ、いいから。誰だというに、取次がお前、そんなに待たしておいちゃ失礼だろう。」

ちと躾めるように言うと、一層頬辺の色を濃くして、ますます気勢込んで、

「何、あなた、ちっと待たして置きます方がかえっていいんでございますよ。昼間ッからあなた、何ですわ。」

と厭な目つきでまたニヤリで、

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