TORENDIA
一つの作が出来
上るまで
芥川龍之介
TORENDIA
一つの作が出来上るまで
本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
一つの作品が完成するまでの過程を綴る。著者は、執筆の計画通りに進む場合と、途中で作中の人物や出来事が予定外の発展を見せる場合があると論じる。特に『枯野抄』や『奉教人の死』の執筆時、資料との出会いや執筆中の閃きによって当初の筋書きが大きく変化した経験を回想し、執筆過程における物語の変容と、それが作品に与える影響について考察する。
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或る一つの作品を書かうと思つて、それが色々の径路を辿つてから出来上がる場合と、直ぐ初めの計画通りに書き上がる場合とがある。例へば最初は土瓶を書かうと思つてゐて、それが何時の間にか鉄瓶に出来上がることもあり、又初めから土瓶を書かうと思ふと土瓶がそのまま出来上がることもある。その土瓶にしても蔓を籐にしようと思つてゐたのが竹になつたりすることもある。私の作品の名を上げて言へば「羅生門」などはその前者であり、今ここに話さうと思ふ「枯野抄」「奉教人の死」などはその後者である。
その「枯野抄」といふ小説は、芭蕉翁の臨終に会つた弟子達、其角、去来、丈艸などの心持を描いたものである。それを書く時は「花屋日記」といふ芭蕉の臨終を書いた本や、支考だとか其角だとかいふ連中の書いた臨終記のやうなものを参考とし材料として、芭蕉が死ぬ半月ほど前から死ぬところまでを書いてみる考であつた。勿論、それを書くについては、先生の死に会ふ弟子の心持といつたやうなものを私自身もその当時痛切に感じてゐた。その心持を私は芭蕉の弟子に借りて書かうとした。ところが、さういふ風にして一二枚書いてゐるうちに、沼波瓊音氏が丁度それと同じやうな小説(?)を書いてゐるのを見ると、今迄の計画で書く気がすつかりなくなつてしまつた。
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