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TORENDIA

文章

本文約6,700字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

堀川保吉は英語教師として勤務する学校で、急死した本多少佐の弔辞作成を命じられる。創作を本分とする彼は、心ならずも事務的に弔辞を書き上げる。葬儀当日、本多の親族が弔辞に涙する光景を目の当たりにし、道化としての罪悪感を抱く。帰路、自身の小説への酷評と弔辞への称賛の対比に思い悩む保吉は、暗い往来で不意に誰かと遭遇し、自身の立ち位置に困惑しながらも日常の奇妙な光景を経験する。

芥川龍之介

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「堀川さん。弔辞を一つ作ってくれませんか? 土曜日に本多少佐の葬式がある、――その時に校長の読まれるのですが、……」

藤田大佐は食堂を出しなにこう保吉へ話しかけた。堀川保吉はこの学校の生徒に英吉利語の訳読を教えている。が、授業の合い間には弔辞を作ったり、教科書を編んだり、御前講演の添削をしたり、外国の新聞記事を翻訳したり、――そう云うことも時々はやらなければならぬ。そう云うことをまた云いつけるのはいつもこの藤田大佐である。大佐はやっと四十くらいであろう。色の浅黒い、肉の落ちた、神経質らしい顔をしている。保吉は大佐よりも一足あとに薄暗い廊下を歩みながら、思わず「おや」と云う声を出した。

「本多少佐は死なれたんですか?」

大佐も「おや」と云うように保吉の顔をふり返った。保吉はきのうずる休みをしたため、本多少佐の頓死を伝えた通告書を見ずにしまったのである。

「きのうの朝歿くなられたです。脳溢血だと云うことですが、……じゃ金曜日までに作って来て下さい。ちょうどあさっての朝までにですね。」

「ええ、作ることは作りますが、……」

悟りの早い藤田大佐はたちまち保吉の先まわりをした。

「弔辞を作られる参考には、後ほど履歴書をおとどけしましょう。」

「しかしどう云う人だったでしょう? 僕はただ本多少佐の顔だけ見覚えているくらいなんですが、……」

「さあ、兄弟思いの人だったですね。それからと……それからいつもクラス・ヘッドだった人です。あとはどうか名筆を揮って置いて下さい。」

二人はもう黄色に塗った科長室の扉の前に立っていた。藤田大佐は科長と呼ばれる副校長の役をしているのである。保吉はやむを得ず弔辞に関する芸術的良心を抛擲した。

「資性穎悟と兄弟に友にですね。じゃどうにかこじつけましょう。」

「どうかよろしくお願いします。」

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