本文へ移動
TORENDIA

講演軍記

本文約560字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

北海道への講演旅行で経験した苦労や、旅先での里見弴との道中を綴る。入場料をとらない講演の難しさや移動の疲労、電報を巡る市役所との滑稽なやりとり、さらには食習慣への困惑が描かれる。感傷的な風景に触れつつ、講演に対する心境の変化も記し、旅の締めくくりに雪解けの季節を詠んだ句を収める。

芥川龍之介

速度
🎧 講演軍記 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 1

僕が講演旅行へ出かけたのは今度里見君と北海道へ行つたのが始めてだ。入場料をとらない聴衆は自然雑駁になりがちだから、それだけでも可也しやべり悪い。そこへ何箇所もしやべつてまはるのだから、少からず疲れてしまつた。然し講演後の御馳走だけは里見君が勇敢に断つてくれたから、おかげ様で大助かりだつた。

改造社の山本実彦君は僕等の小樽にゐた時に電報を打つてよこした。こちらはその返電に「クルシイクルシイヘトヘトダ」と打つた。すると市庁の逓信課から僕等に電話がかかつてきた。僕は里見君のラジオ・ドラマのことかと思つたから、早速電話器を里見君に渡した。里見君は「ああ、さうです。ええ、さうです」とか何とか云ひながら、くすくすひとり笑つてゐた。それから僕に「莫迦莫迦しいよ、クルシイクルシイですか、ヘトヘトだですかときいて来たんだ。」と云つた。こんな電報を打つたものは小樽市始まつて以来なかつたのかも知れない。

講演にはもう食傷した。当分はもうやる気はない。北海道の風景は不思議にも感傷的に美しかつた。食ひものはどこへたどり着いてもホツキ貝ばかり出されるのに往生した。里見君は旭川でオムレツを食ひ、「オムレツと云ふものはうまいもんだなあ」としみじみ感心してゐただけでも大抵想像できるだらう。

雪どけの中にしだるる柳かな (昭和二年六月)

完

芥川龍之介の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本