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TORENDIA

水の三日

本文約5,000字 ・ 読了時間 約11分

あらすじ(AIが作成しました)

水の引いた後の学校を舞台に、水害に遭った罹災民のために講堂で慰問会を開催した生徒たちの活動を綴る。彼らは食料の分配や通信の代筆、義捐金による物資の提供、さらには福引の企画など、罹災民を支援するために献身的に動く。本作は、教室での準備に追われる慌ただしい様子や、身の上話の聞き取りに難儀する生徒たちの奮闘、そして最後に避難先から家へ帰る人々を見送るまでの情景を通して、当時の学生たちの誠実な営みを描く。

芥川龍之介

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🎧 水の三日 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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講堂で、罹災民慰問会の開かれる日の午後。一年の丙組(当日はここを、僕ら――卒業生と在校生との事務所にした)の教室をはいると、もう上原君と岩佐君とが、部屋のまん中へ机をすえて、何かせっせと書いていた。うつむいた上原君の顔が、窓からさす日の光で赤く見える。入口に近い机の上では、七条君や下村君やその他僕が名を知らない卒業生諸君が、寄附の浴衣やら手ぬぐいやら晒布やら浅草紙やらを、罹災民に分配する準備に忙しい。紺飛白が二人でせっせと晒布をたたんでは手ぬぐいの大きさに截っている。それを、茶の小倉の袴が、せっせと折目をつけては、行儀よく積み上げている。向こうのすみでは、原君や小野君が机の上に塩せんべいの袋をひろげてせっせと数を勘定している。

依田君もそのかたわらで、大きな餡パンの袋をあけてせっせと「ええ五つ、十う、二十」をやっているのが見える。なにしろ、塩せんべいと餡パンとを合わせると、四円ばかりになるんだから、三人とも少々、勘定には辟易しているらしい。

教壇の方を見ると、繩でくくった浅草紙や、手ぬぐいの截らないのが、雑然として取乱された中で、平塚君や国富君や清水君が、黒板へ、罹災民の数やら塩せんべいの数やらを書いてせっせと引いたり割ったりしている。急いで書くせいか、数字までせっせと忙しそうなかっこうをしているから、おかしい。そうすると広瀬先生がおいでになる。ちょっと、二言三言話して、すぐまたせっせと出ていらっしゃる。そのうちにパンが足りなくなって、せっせと買い足しにやる。せっせと先生の所へ通信部を開く交渉に行く。開成社へ電話をかけてせっせとはがきを取寄せる。誰でも皆せっせとやる。何をやるのでもせっせとやる。その代わり埓のあくことおびただしい。窓から外を見ると運動場は、処々に水のひいた跡の、じくじくした赤土を残して、まだ、壁土を溶かしたような色をした水が、八月の青空を映しながら、とろりと動かずにたたえている。その水の中を、やせた毛の長い黒犬が、鼻を鳴らしながら、ぐしょぬれになって、かけてゆく。犬まで、生意気にせっせと忙しそうな気がする。

慰問会が開かれたのは三時ごろである。

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