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TORENDIA

寒山拾得

本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

漱石との議論を終えた語り手は、飯田橋の往来で襤縷を纏った寒山拾得と遭遇する。同乗していた男から彼らが普賢文殊であると聞かされ、語り手は不思議な光景に魅了される。露西亜小説の激しい革命描写を読みながらも、晩秋の光の中で箒を担ぎ歩く彼らの姿が強く印象に残る。現代の東京を古の風体で闊歩する二人を追った語り手は、この奇妙な出会いを漱石に手紙で伝えようと決意し、彼らの存在を日常の中に受け入れていく。

芥川龍之介

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🎧 寒山拾得 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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久しぶりに漱石先生の所へ行つたら、先生は書斎のまん中に坐つて、腕組みをしながら、何か考へてゐた。「先生、どうしました」と云ふと「今、護国寺の三門で、運慶が仁王を刻んでゐるのを見て来た所だよ」と云ふ返事があつた。この忙しい世の中に、運慶なんぞどうでも好いと思つたから、浮かない先生をつかまへて、トルストイとか、ドストエフスキイとか云ふ名前のはいる、六づかしい議論を少しやつた。それから先生の所を出て、元の江戸川の終点から、電車に乗つた。

電車はひどくこんでゐた。が、やつと隅の吊革につかまつて、懐に入れて来た英訳の露西亜小説を読み出した。何でも革命の事が書いてある。労働者がどうとかしたら、気が違つて[#「違つて」は底本では「違って」]、ダイナマイトを抛りつけて、しまひにその女までどうとかしたとあつた。兎に角万事が切迫してゐて、暗澹たる力があつて、とても日本の作家なんぞには、一行も書けないやうな代物だつた。勿論自分は大に感心して、立ちながら、行の間へ何本も色鉛筆の線を引いた。

所が飯田橋の乗換でふと気がついて見ると、窓の外の往来に、妙な男が二人歩いてゐた。その男は二人とも、同じやうな襤縷々々の着物を着てゐた。しかも髪も髭ものび放題で、如何にも古怪な顔つきをしてゐた。自分はこの二人の男に何処かで遇つたやうな気がしたが、どうしても思ひ出せなかつた。すると隣の吊革にゐた道具屋じみた男が、

「やあ、又寒山拾得が歩いてゐるな」と云つた。

さう云はれて見ると、成程その二人の男は、箒をかついで、巻物を持つて、大雅の画からでも脱け出したやうに、のつそりかんと歩いてゐた。が、いくら売立てが流行るにしても、正物の寒山拾得が揃つて飯田橋を歩いてゐるのも不思議だから、隣の道具屋らしい男の袖を引張つて、

「ありや本当に昔の寒山拾得ですか」と、念を押すやうに尋ねて見た。けれどもその男は至極家常茶飯な顔をして、

「さうです。私はこの間も、商業会議所の外で遇ひました」と答へた。

「へええ、僕はもう二人とも、とうに死んだのかと思つてゐました。」

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