本文へ移動
TORENDIA

その頃

本文約340字 ・ 読了時間 約1分

あらすじ(AIが作成しました)

若き日、中央公論社の編集局を訪ね、編集者・滝田樗陰に処女作「貧しき人々の群」の原稿を見せた時の緊張と、文学を続ける決意を語った当時を振り返る宮本百合子の回想。

宮本百合子

速度
🎧 その頃 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 1

門柱の左には麻田駒之助と標札が出ていて、門内右手の粗末な木造洋館がその時分(大正五年)中央公論社の編輯局になっていた。受付で待っていると、びっくりするばかりの赭ら顔に髪の毛をもしゃとし、眼付が足柄山の金時のような感じを与える男の人が、坪内先生の手紙を片手に握って速足に出て来た。これが瀧田樗蔭氏であった。白絣に夏羽織の裾をゆすって二階へ上った。私が全く自然発生的に書いた小説「貧しき人々の群」の原稿はテーブルの上でこの精悍に丸い人の丸い指先でめくられた。やがて瀧田さんがこれからずっと文学をやって行くつもりですかと訊いた。そりゃ勿論そうだわ。と私は女学生の言葉でふっきるように云った。当時私は其以外に自身のはりつめた感情をあらわす云いようを知らないのであった。

〔一九三五年十月〕

完

宮本百合子の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本