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TORENDIA

わが父

本文約9,300字 ・ 読了時間 約19分

あらすじ(AIが作成しました)

二月の雪が降る中、父の葬儀を終えた著者は、亡き父の面影と互いに育んできた愛情を回想する。六十九歳で急逝した父は、幼少期の苦労や家族との対立を経て、晩年には娘である著者と深い信頼で結ばれていた。本書は、父の生涯を振り返りつつ、残された二十行の英詩を受け取るまでの父娘の情愛と、喪失から再生へ向かう内面的な変化を綴る。

宮本百合子

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二月二日に父の葬儀を終り、なか一日置いた四日の朝、私は再びそれまでいた場所へ戻った。初めてそこへ行った時と同じ手続で或る小部屋へ入り自分の着物は一切脱いで、肌へつける物から洗いさらした藍い物ずくめになり、沢山並んで夫々番号のついている扉の一つの中に入って坐った。

私が、全く突然、父の死を知らされたのは一月三十日の午後三時頃のことであった。遮断されていた生活からいきなり激動の三日間を暮し、再び切れ目のない単調な寒さの中にかえって来て縁のない畳が三枚しいてあるところへ坐ると、堪え難い疲労が襲って来た。張りつめた寒さと痺れるような睡たさとで、私は坐ったまま居睡りをし始めた。丁度その時分から雪が降り出し、私が何かの物音で薄目をあけ、ついでそういう生活の条件の裡ではいつとなし習慣となっている動作で左手の高い窓を見上げると、細かい金網の網目のむこうで雪は益々盛に降りしきっている。次の日とその次の日、私は寝床についた。夜と昼との境もなく眠りつづけて、眠る間に目がさめて窓を見るといつ見ても金網のむこうで霏々と雪が降っている。父の真新しい墓標の上にもこの雪が降りつもっている、私は麻痺した頭でそう考えた。中條精一郎墓と書かれた墓標をめぐって、ここで見上げていると同じに雪片が絶え間なく舞い飛ぶ有様がまざまざと目に泛び、優しい、悲しい、同時によろこばしいような感動が鋭く、滲みとおるように胸にひろがった。ひどく降るのが二月の勢のいい雪であることが、何だか大変父の生涯や互に持っていた愛情に似つかわしく思われるのであった。

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