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TORENDIA

明治のランプ

本文約2,100字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

米沢藩士中條政恒は、進取の気質を持ち北海道開発や猪苗代湖の疏水事業に情熱を注いだ。本書は、著者である孫娘が聞いた祖母らの昔話を交えつつ、明治初期の東北に持ち込まれたランプの光景や、開墾に生涯を捧げた祖父の生き様、そしてその塾に集った若き日の伊東忠太や後藤新平らとの関わりを綴る随筆である。時代の移り変りの中で、開墾に賭けた男の情熱と家族の記憶を穏やかな筆致で描き出す。

宮本百合子

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🎧 明治のランプ / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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母かたの祖母も父かたの祖母も長命な人たちであった。いずれも九十歳近くまで存生であったから、総領の孫娘である私は二人のおばあさんから、よく様々の昔話をきいた。母方の祖父も父方の祖父も、私が三つぐらいのとき既に没して、いずれも顔さえ覚えていない。

二人の祖母たちは、それぞれ祖父とともに波瀾の多い維新から明治への生活のうつり変りを経験したのであるが、父かたの祖父は米沢藩で、後には役人をして晩年福島県の開成山で終った。地位としては大した役人ではなかった様子であるが、この中條政恒という人の畢生の希望と事業とは、所謂開発のこと、即ち開墾事業で、まだ藩があった頃、北海道開発の案を藩に建議したところ若年の身で分に過ぎたる考えとして叱られた。その北海道へ手をつけていた某華族は、明治に入ってから尨大な財産を持つことになったのを見て、政恒は、俺の云うことをきいておれば上杉家は大金持になったのに、と云った由。祖父は進取の方の気質で、丁髷も藩士のうちでは早く剪った方らしく、或る日外出して帰った頭を見ればザンギリなのに気丈の曾祖父が激憤して、武士の面汚しは生かして置かぬと刀を振って向ったという有様を、祖母は晩年までよく苦笑して話した。開発のことが終生頭についていた人であるから、金を蓄える方面は一向に駄目で、島根へ、役人として袴着一人をつれて行っていた暮しの間でも、米沢の家の近所のものには太政官札を行李につめて送ってよこすそうだと噂されつつ、内輪は大困窮。その頃の旧藩士と新政府とに対する微妙な感情から、政恒という人は政府から国のそとで貰う金は国のそとで使ってしまうべしという主義でいたのだそうだ。

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