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TORENDIA

大菩薩峠

本文約201,900字 ・ 読了時間 約404分

あらすじ(AIが作成しました)

米友は家財と大金を背負って逃げ出した馬を追って奔走し、ようやく捕獲するが、周囲の人々から激しい石礫を浴びる。一方、腕利きの盗賊であるがんりきは、三百両の工面に奔走する道中で、商人のように装い旅をする伊太夫一行を見つけ、その背後を付け狙う。奔馬を追う者、金を求める者、そして目的を秘めて旅をする者たちが交錯する中、物語は各地を舞台に動乱の気配を漂わせながら展開する。

中里介山

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一

とめどもなく走る馬のあとを追うて、宇治山田の米友は、野と、山と、村と、森と、田の中を、かなり向う見ずに走りました。

しかし、相手は何をいうにも馬のことです。さしもの米友も、追いあぐねるのが当然でしたが、そうかといって、そのまま引返す米友ではありません。ことに右の放たれたる馬には、長浜で買入れた家財雑具はいうに足らないとしても、たったいま両替したばっかりの何千というお金が、確実に背負わせられている。金額の多少を論ずるわけではないが、ことにあのお嬢様が、この米友を見込んで用心棒を依頼してある、その責任感から言っても、追及するところまでは追及せずにはおられないでしょう。

それはそうとして、米友もまた心得たところもある。奔馬というものは、前から捉えるに易くして、後ろから追うにはこの通り骨だが、そうかといって馬というやつは、蝶々トンボの類と違って、どう間違っても空中へ向けて逸走することはない。天馬空を往くという例外もあるにはあるが、通例としてはせいぜい地上を走るだけのものである。ああしてせいぜい地上を走っているそのうちには前途から誰か心得のある奴が出て来て取捕まえてくれるか、そうでなければ馬め自身が行詰るところまで行って、立往生するか、顛落するかよりほかはないものだ――ただ、往来雑沓の町中ででもあるというと、他の人畜に危害を与えるおそれもあるが、その点に於てこういう野中では安心なものだ――という腹が米友にあるから、焦りつつも、いくらかの余裕をもって走ることができるのです。

ところが、案に相違して、なかなか前途から、心得のありそうな奴が飛び出して取抑えてくれそうもなし、何かこの奔馬をして、行きつまらせるところの障碍物といったようなものも容易にないのであります。

ついに一つのやや大きな川原中へ飛び出してしまいました。

「川へ来やがった」

川原道を、ついにこの馬がガムシャラに走るのです――その川原の幾筋もの流れをむやみに乗切って、ずんずん飛んで行く馬は、まだ石田村の門前でひっぱたかれた逆上が下りないで、お先まっくらがさせる業なのでしょう。

やむことを得ず、米友もつづいて川原の中へ飛び下りました。

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