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TORENDIA

かれいの贈物

本文約2,700字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

十二月の昼、村上は教え子の山崎を自宅に招く。山崎は手土産として笹がれいを持参するが、直後に来訪した敏子が、以前村上から贈られた松葉がれいへの礼を口にする。山崎は自分の贈物が即座に彼女へ回されたと誤解するが、実際は二つの別々の贈り物であった。村上はこの偶然の重なりと、誤解が生じる論理的構造を考察する。本作は、些細な出来事から生じる人間関係の機微と、偶然が招く解釈の齟齬を哲学的に描く。

九鬼周造

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🎧 かれいの贈物 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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十二月も半ば過ぎた頃であった。村上は友人の山崎を自宅の昼飯に招いた。独身者同様の村上は時にこうして十五ばかり年下の山崎と会食をしながら寛いだ気もちで談笑するのが好きであった。年齢の相違もあるので二人の間には師弟といったような感覚も交っていた。村上が二階の書斎で手紙を書いていると女中が山崎の来たことを告げながら

「これを頂戴いたしました」

といって干鰈の沢山入った籠を見せた。約束の時間よりも少し早かったので、遠慮のない間柄であるから主人は「ちょっとお待ち下さい」といわせて急ぎの手紙を書き終えてから下へ降りた。

「お待たせした。どうも今は結構なものをありがとう」

「実は国許へ帰っている妻から今朝送ってきましたのでちょうどいいから先生に差上げたいと思ってもってまいりました。笹がれいと若狭では呼んでおります。お口に合うかどうかわかりませんが」

「それは御厚意をどうもありがとう」

村上は山崎の友情を言葉でよりも心で深く感謝している様子だった。二人はやがて酒盃を交わしながらお互いの仕事のことや近頃読んだ本のことやその他色々と語り合った。

午後の二時頃になった。玄関のベルが鳴ると女中は吉田敏子の来訪を告げた。敏子は山崎とも知合っているので村上はすぐにそこへ通させた。不幸な結婚をした出戻りではあるがまだ三十になったばかりの美しい敏子はかなり派手な着物をすらりとした身体に着こなして魅力の溢れた挨拶をした。しばらくしてから敏子は主人に

「あ、松葉がれいをどうもありがとうございました」

といった。主人は微笑しながら軽くうなずいた。酒に強くない山崎は僅か飲んだだけでもう少し酔い気味になっていたせいか

「松葉がれいですって?」

と口をすべらしたが、すぐに

「いや、よしておきましょう」

といって笑った。

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