TRENDIA CLASSIC

黄昏

水野葉舟

1 / 7

佐々木君が馬車に乗ってしまうのを見送って、二階にあがって来た。けさ遠野から馬車に乗った人たちが、二組三組に分かれてほうぼうの室の炬燵にあたっている。時計を見ると、もう三時少し過ぎた。

一人ぼつりと二階の自分の室に入ってくると、出たままになっている炬燵の口から、また足を入れた。今日は寒い薄日のさした日だ。からだを少し横にして、天井を見ていたが、親しみがたく、落ちつかぬ。ぼやっとした感じがこのからだを取りかこんでいる。寒さが沁みわたる。もう三月の二十九日。東京ならば桜も咲こうという頃なのだ。

ここは遠野町と、花巻町との中継ぎの村で宮守というところ。両方から出る馬車が、この村まで来て、客を乗せ換えて引き返して行くところである。

私はちょうど一と月ばかり前、雪がもっと深い時分にここを通って遠野に行った。今日はその帰途である。

けさは九時に馬車が遠野を出た。同行の佐々木君は馬車に乗ると、かならずからだを悪くすると言うので、十二里に少し遠い花巻まで歩くこととした。その佐々木君も遠野の町はずれで別れて、五里半あると言う道を揺られながら、ここに着いて見ると、花巻からの馬車はまだ来ておらぬと言う。春といっても、短かい日はもう、どことなく傾いている。まだここから花巻までは七里、覚束ない、薄ら寒い心持ちが胸に映える。

馬車がここに着いて、この中継ぎの宿屋の門に立っていると、佐々木君も峠を越してちょうどこの村にはいって来た。で、同じ家の二階に上って向い合って食事をすますと、佐々木君は遅くも九時頃までには花巻に着きたいと言って、つぎの村まで人車に乗ることにした。で、今夜、約束の宿屋で落ち合うと言うことにして、別れて行った。

私は室の中で一人当てなしに、ぼつりとして花巻からくる馬車を待っていた。

水野葉舟の他の作品