北国の人
本文約11,200字 ・ 読了時間 約23分
あらすじ(AIが作成しました)
雨の夜、佐内坂上の下宿で主人公は、同じ宿の早稲田の学生・荻原の訪問を受ける。内気で陰鬱な荻原は、東北の郷里や自身の幻覚体験を語り、その後もたびたび主人公と交流を深める。ある夜、荻原は小石川で見た恐ろしい幻覚の苦しみを吐露し、主人公の元へ助けを求めて泊まり込む。やがて主人公は、荻原の絶えない女性関係と、それに付随する苦悩や心臓病に翻弄される彼の危うい日常と、帰郷後の煩悶の手紙を綴る物語である。
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一
九月の中ごろ、ひどく雨が降った或る晩のこと。――学校を出た間もなくこれから新聞社にでも入る運動をしようと思ってる時に少し思うことがあって、私は親の家から出て、佐内坂上[#ルビの「さないざかうへ」はママ]の下宿屋に下宿して間もなくであったが、――ちょうど九時打った頃、その某館に、どしゃ降りの最中によそから帰って来た。
自分の室にはいって、散滴でじめじめしている衣服を脱いでいると、そこへここの娘のお八重が湯を持って入って来た。茶を入れてくれたり、濡れた衣服を衣紋架に通して、壁のところにかけたりして、室を片付けていたが、急に思いついたように、
「ああ、そうそう、下の荻原さんが貴方にお目にかかりたいって。」と言う。
「荻原ってどんな人だ?……おれに何の用があるだろう。」
「何の用ですか? この間からそう言ってらしたから。今夜なんぞ丁度いいわ。いらっしゃいって、そう言って来ましょうね。……それは変んな言葉つきよ。私なんぞには何言ってらっしゃる[#「らっしゃる」は底本では「らっしやる」]んだか、半分ぐらいしかわからないの。」
たてつづけにしゃべって、獨りで呑み込んだ顔をして下に降りて行った。
ちょっと不思議な気もしたが、そのまま待っていると、やがて、入口の唐紙を開けて、鴨居に首がつかえそうな大きな男がぬうっと入って来た。木綿の紋付の羽織を着て、田舎風のしまの着物の胸をきちんと合わせた、頭を長くのばしてぴったりと分けた、色の赤黒い、にきびのある、その顔を見ると、私は腹の中でああこの人が荻原かと思った。この人なら、大抵毎朝、洗面場で会って知っている。学生の連中はもう大抵出て行った頃、まぶしそうな眼付きをして、のっそりと顔を洗いに出てくる人だ。
荻原はきまりの悪るそうな笑を含ませて入口に近いところに坐ろうとするから、
「まあ、もっとこっちに。」
と坐蒲団をすすめると、
「え、え。」
と二つばかり頭を下げて、その儘ぐずぐずしている。そこへお八重が入って来て、
「荻原さん、もっと奥にいらっしゃいよ。」
と言うと、やっと、私の前にいざり寄った。
私は何の用かと待ちかまえていたが、相手が何にも言い出そうとせぬから、