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TORENDIA

遠野へ

本文約14,300字 ・ 読了時間 約29分

あらすじ(AIが作成しました)

花巻から遠野へ向かう旅に出た私は、凍てつく北国の厳しい冬景色の中で人々と馬車に揺られ、目的地の町に辿り着く。雪深い山間の陰鬱な町並みや、そこに暮らす人々の営みを見つめるうちに、私は東京への郷愁や得体の知れない寂寥感を抱く。現地で友人らと交流し、芝居見物や町で催される音楽会の噂に耳を傾けながら、都会の文明が辺境の静寂な地へと少しずつ浸透していく様子を描く。

水野葉舟

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一

「いま、これから東の方に向って、この花巻を発つ。目的地の遠野に着くには、今夜、夜が少し更けてからだそうだ。」――この頃は、もう少しずつ雪が解けはじめたので、途中が非常な悪路だと聞いた。私は今日の道の困難なことを想像しながら、右の文句をはがきに書いた。私はこんどその遠野に帰っている友人に会うために、東京を出て来たのである。

ところへ、宿の女がはいって来て、馬車がくる頃だから用意をしろという。私は急いで、そのはがきに午前九時十分と時間を書き入れた。それを留守宅の宛名にして、それから、ほかの一枚にも同じ文句を書いて、来る路に仙台で世話になった家に宛てた。

手ばしこく洋服を着た。宿屋の勘定は前にすましてあったから、用意ができると玄関に出て行った。宿のものに送られて、靴を穿きながら空を見ると、つめたい、灰色の煙が立ち籠ったような空の色だ。

「これが、北国空か……」と思いながら、寒さと寂しさとがからだに沁みて来るようなので、私は堅く唇をむすんだ。

宿屋を出て、町の街道にくると、出たところに白い布の垂幕をおろした、小さな箱形の馬車が二台並んでいた。

昨日、日の入るころ着いた時には、雪が解けて、この町には濁った水が流れていた。それが今朝はすっかり凍っている。その上を飛び飛び馬車に近づくと、私は馬の丈夫そうな先き立っている方に乗ろうとした。

すると、そこに立っていた、赭顔の喰い肥った馭者が押し退けるような手真似をして、うしろのに乗れと言った。うしろのはその馬車にくらべると、馬も瘠せて小さかった。

私は知らぬ土地に来た、旅人の心弱さで、黙って二三歩歩きかえして、瘠せて肋骨の出た馬が牽いている方に乗ろうとした。その時、前の馬車の垂幕があがって、うしろ向き美しく髪を結った娘が首を出した。

私の乗った方には、二重マワシを着た長顔の鬚の白い老人と、黒羅紗の筒袖の外套を着た三十恰好の商人体の男とが乗っていた。私が入るとつづいて毛糸の襟巻をした若い男がはいって来て入口の戸を閉めた。

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