三人の盲の話
本文約8,800字 ・ 読了時間 約18分
あらすじ(AIが作成しました)
四谷の坂で、坂上は三人の按摩と行き会う。中の一人の按摩は、坂上の行く先に待ち受ける不吉な影について語り始める。かつて按摩が思いを寄せた婦人が、魔の影に呪われて自ら視力を失った因縁話を明かし、同じ迷いを持つ坂上の行く末を案じて警告する。按摩たちは、自らも因果の連鎖の中で盲目となった過去を背負いながら、靄に紛れて夜の闇へと消えていく。これは、不可解な縁と影の怪異が絡み合う、三人の盲人と坂上の奇妙な遭遇を描く物語である。
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一
「もし/\、其處へ行らつしやりますお方。」……と呼ぶ。
呼ばれた坂上は、此の聲を聞くと、外套の襟から先づ悚然とした。……誰に似て可厭な、何時覺えのある可忌しい調子と云ふのではない。が、辿りかゝつた其のたら/\上りの長い坂の、下から丁ど中央と思ふ處で、靄のむら/\と、動かない渦の中を、見え隱れに、浮いつ沈みつする體で、跫音も聞えぬばかり――四谷の通りから穴の横町へ續く、坂の上から、しよな/\下りて來て、擦違つたと思ふ、と其の聲。
何の約束もなく、思ひも懸けず行逢つたのに、ト見ながら行過ぎるうち、其れなり何事も無しには分れまい。呼ぶか、留めるか、屹と口を利くに違ひない、と坂上は不思議にも然う思つた。尤も其は、或機會に五位鷺が闇夜を叫ぶ、鴉が啼く、と同じ意味で、聞くものは、其處に自分一人でも、鳥は誰に向つて呼ぶのか分らない。けれども、可厭な、可忌しい聲を聞かずには濟むまい、と思ふと案の定……
來て、其の行逢つたものは、一ならびに並んだ三人づれで、どれも悄乎とした按摩である。
中に挾まれたのは、弱々と、首の白い、髮の濃い、中年増と思ふ婦で、兩の肩がげつそり痩せて、襟に引合せた袖の影が――痩せた胸を雙の乳房まで染み通るか、と薄暗く、裾をかけて、帶の色と同じやうに――黒く映して、ぴた/\ぴた/\と草履穿か、地とすれ/\の褄を見た。
先に立つたのは鼠であらう、夜目には此の靄を織つてなやした、被布のやうなものを、ぐたりと着て、縁なしの帽子らしい、ぬいと、のはうづに高い、坊主頭其のまゝと云ふのを被つた、脊のひよろりとしたのが、胴を畝らして……通る。
後なる一人は、中脊の細い男で、眞中の、其の盲目婦の髮の影にも隱れさうに、帶に體を附着けて行違つたのであるから、形、恰好、孰れも判然としない中に、此の三人目のが就中朧に見えた。
此の癖、もし/\、と云つた、……聲を聞くと、一番あとの按摩が呼留めた事が、何うしてか直ぐに知れた……
「私かい。」
と直ぐに答へて、坂上は其のまゝ立留まつて、振向いた……ひやりと肩から窘みながら、矢庭に吠える犬に、(畜生、)とて擬勢を示す意氣組である。
「はあ、お前樣で。」