TRENDIA CLASSIC
田原藤太
楠山正雄
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一
むかし近江の国に田原藤太という武士が住んでいました。ある日藤太が瀬田の唐橋を渡って行きますと、橋の上に長さ二十丈もあろうと思われる大蛇がとぐろをまいて、往来をふさいで寝ていました。二つの目玉がみがき上げた鏡を並べたようにきらきらかがやいて、剣を植えたようなきばがつんつん生えた間から、赤い舌がめらめら火を吐くように動いていました。あたり前の人なら、見ただけで目を回してしまうところでしょうが、藤太は平気な顔をして、大蛇の背中の上を踏んで歩いて行きました。しばらく行くと、後ろでだしぬけに、
「もしもし。」
という声がしました。その時はじめてふり向いてみますと、今までそこにとぐろをまいていた大蛇は影も形もなくなって、青い着物を着た小さな男が、しょんぼりそこに座って、おじぎをしていました。
藤太は不思議そうにその男の様子をながめて、
「今わたしを呼んだのはお前か。」
と聞きました。小男はまたていねいに頭を下げて、
「はい、わたくしでございます。じつはぜひあなたにお願いしたいことがございます。」
といいました。
「それは聞いてあげまいものでもないが、いったいお前は何者だ。」
「わたくしは長年この湖の中に住んでいる龍王でございます。」
「ふん、龍王。するとさっき橋の上に寝ていたのはお前かね。」
「へい。」
「それで用というのは。」
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