葛の葉狐
本文約10,400字 ・ 読了時間 約21分
あらすじ(AIが作成しました)
阿倍の保名は、信田の森で侍たちに追われていた若い牝狐を救い出す。その後、保名は狐の化身である葛の葉と結ばれ、息子を授かる。時が経ち、その息子である晴明は卓越した術の才能を発揮する。ある日、高名な学者である芦屋道満が晴明の出生を疑い、帝の前で術比べを挑む。晴明は術を用いて道満を打ち負かし、実力を証明する。葛の葉との出会いから始まり、晴明の成長と道満との対決を描く物語である。
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一
むかし、摂津国の阿倍野という所に、阿倍の保名という侍が住んでおりました。この人の何代か前の先祖は阿倍の仲麻呂という名高い学者で、シナへ渡って、向こうの学者たちの中に交ってもちっとも引けをとらなかった人です。それでシナの天子さまが日本へ還すことを惜しがって、むりやり引き止めたため、日本へ帰ることができないで、そのまま向こうで、一生暮らしてしまいました。仲麻呂が死んでからは、日本に残った子孫も代々田舎にうずもれて、田舎侍になってしまいました。仲麻呂の代から伝えた天文や数学のむずかしい書物だけは家に残っていますが、だれもそれを読むものがないので、もう何百年という間、古い箱の中にしまい込まれたまま、虫の食うにまかしてありました。保名はそれを残念なことに思って、どうかして先祖の仲麻呂のような学者になって、阿倍の家を興したいと思いましたが、子供の時から馬に乗ったり弓を射たりすることはよくできても、学問で身を立てることは思いもよらないので、せめてりっぱな子供を生んで、その子を先祖に負けないえらい学者に仕立てたいと思い立ちました。そこで、ついお隣の和泉国の信田の森の明神のお社に月詣りをして、どうぞりっぱな子供を一人お授け下さいましと、熱心にお祈りをしていました。
ある年の秋の半ばのことでした。保名は五六人の家来を連れて、信田の明神の参詣に出かけました。いつものとおりお祈りをすましてしまいますと、折からはぎやすすきの咲き乱れた秋の野の美しい景色をながめながら、保名主従はしばらくそこに休んで、幕張りの中でお酒盛りをはじめました。