TRENDIA CLASSIC

葛の葉狐

楠山正雄

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むかし、摂津国の阿倍野という所に、阿倍の保名という侍が住んでおりました。この人の何代か前の先祖は阿倍の仲麻呂という名高い学者で、シナへ渡って、向こうの学者たちの中に交ってもちっとも引けをとらなかった人です。それでシナの天子さまが日本へ還すことを惜しがって、むりやり引き止めたため、日本へ帰ることができないで、そのまま向こうで、一生暮らしてしまいました。仲麻呂が死んでからは、日本に残った子孫も代々田舎にうずもれて、田舎侍になってしまいました。仲麻呂の代から伝えた天文や数学のむずかしい書物だけは家に残っていますが、だれもそれを読むものがないので、もう何百年という間、古い箱の中にしまい込まれたまま、虫の食うにまかしてありました。保名はそれを残念なことに思って、どうかして先祖の仲麻呂のような学者になって、阿倍の家を興したいと思いましたが、子供の時から馬に乗ったり弓を射たりすることはよくできても、学問で身を立てることは思いもよらないので、せめてりっぱな子供を生んで、その子を先祖に負けないえらい学者に仕立てたいと思い立ちました。そこで、ついお隣の和泉国の信田の森の明神のお社に月詣りをして、どうぞりっぱな子供を一人お授け下さいましと、熱心にお祈りをしていました。

ある年の秋の半ばのことでした。保名は五六人の家来を連れて、信田の明神の参詣に出かけました。いつものとおりお祈りをすましてしまいますと、折からはぎやすすきの咲き乱れた秋の野の美しい景色をながめながら、保名主従はしばらくそこに休んで、幕張りの中でお酒盛りをはじめました。

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