TRENDIA CLASSIC

忠義な犬

楠山正雄

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むかし陸奥国に、一人のりょうしがありました。毎日犬を連れて山の中に入って、猪や鹿を追い出しては、犬にかませて捕って来て、その皮をはいだり、肉を切って売ったりして、朝晩の暮らしを立てていました。

ある日りょうしはいつものように犬を連れて山に行きましたが、どういうものか、その日は獲物が一向にありません。そこで心をいらだたせながら、ついうかうか、獲物を探していくうちに、だんだん奥へ、奥へと入っていって、そのうちにとっぷり日が暮れてしまいました。

こう山奥深く入っては、もう今更引っ返して、うちへ帰ろうにも帰れなくなりました。仕方がないので、今夜は山の中に野宿をすることにきめました。一本の大きな木の、うつろになった中に入って、犬どもを木のまわりに集めて、たくさんたき火をして、その晩は眠ることにしました。するうちつい昼間の疲れが出て、人も犬も眠るともなく、ぐっすり寝込んでしまいました。

ふと夜中になって、けたたましく犬の鳴き立てる声がしました。驚いてりょうしは目を覚ましました。ぼんやり消え残っているたき火の明りに透してみますと、中でいちばん賢い、獲物を捕ることの上手な犬が、火のまわりをぐるぐる回りながら、気違いのようになってほえ立てていました。りょうしは何事が起こったのかと思って、山刀を持って飛び出して、そこらを見回りました。けれども、何もそこにはほえ立てるような怪しいものの、影も形も見えませんでした。ほかの犬たちも目を覚まさせられて、いっしょにわんわんほえながら、これもやはり獲物をかぎ回っていましたが、何も見つからないので、すごすご、しっぽを振ってもどって来ました。

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