素晴しい記念品
本文約1,600字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
フランスの片田舎に住む孤独な科学者は、自身の描く絵のモデルとなった女たちを薬品や絵具に溶かして消し去るという異様な行いを重ねていた。一方、十年前に忽然と消息を絶った知人の池谷進吾と、その不可解な失踪事件をめぐる周辺の状況が語られる。科学者が語る恐ろしい記念品の話と、池谷の行方を追う語り手の記憶を交錯させ、人間の存在が薬品のように消滅し形を失うという戦慄の可能性を冷徹に描き出す。
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フランスの片田舎に一人の科学者があった、年はもう五十に近いが独身で、兄弟もなく、友達もなく、淋しい孤独生活であった。彼の唯一の趣味は絵を描くことである。最初は静物を、後には人物、ことに若い女ばかりを描くようになった、が、不思議なことに彼に雇われて行ったモデル女はそれぎり姿を消してしまい、紹介者のところに戻って来ないのだ。初めは気にも留めなかったモデル紹介者も、それが五人六人となると少し不審になって、内々様子を探ってみたが別に変ったこともない。しかしどうも気になるので知り合いの刑事に密告した。それから間もなく家宅捜査が行われストーヴの中から燃え残りの薪を引き出すと、それに一つまみほどの長い女の髪の毛が、からみついていた、それ以外は何の発見も得られなかったが、厳重に訊問した結果、自白したところによるとモデル女を自分のものにした揚句、肉体を溶して薬品につくったり、絵具につくったりしていたが髪の毛だけはどうしても溶けなかったので焼き捨てていた。彼は平然として、
「私の描いた絵を見て下さい、実に不思議な色彩を見出すでしょう? 絵は彼女自身の肖像であり、彼女の肉体を溶したもので描いてやったのです、何という素晴しい記念品ではありませんか」と云ったという。
支那の何とかいう薬は人間の脳味噌から造ったものだと云うし、近頃評判の金の薬というのも支那から来るもので、これは人間の心臓から取ったのだそうだ。このフランスの科学者はどういう薬品をつくったか分らないが、いずれにしても形を失ってしまうのだから、捜査上にはバラバラ事件や小間切れよりも、一層始末が悪いだろう。