球根
本文約7,100字 ・ 読了時間 約15分
あらすじ(AIが作成しました)
堅吉の宅に差出人不明の小包が届く。中には正体不明の球根が多数入っていた。持病の胃病に苦しみ、世間との隔絶を感じて過敏な精神状態にある彼は、その贈り物に様々な深読みや妄想を重ね、苦悩する。後に球根は甥からのフリージアであると判明するが、差出人の意図や手跡の類似をめぐり、彼の疑念や思索は尽きない。自身の内面世界と外部との接触が生む無限の闇を意識しつつ、彼は庭に植えた球根の成長にその謎の解明を託す。
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九月中旬の事であった。ある日の昼ごろ堅吉の宅へ一封の小包郵便が届いた。大形の茶袋ぐらいの大きさと格好をした紙包みの上に、ボール紙の切れが縛りつけて、それにあて名が書いてあったが、差出人はだれだかわからなかった。つたない手跡に見覚えもなかった。紙包みを破って見ると、まだ新しい黄木綿の袋が出て来た。中にはどんぐりか椎の実でもはいっているような触感があった。袋の口をあけてのぞいて見ると実際それくらいの大きさの何かの球根らしいものがいっぱいはいっている。一握り取り出して包み紙の上に並べて点検しながらも、これはなんだろうと考えていた。
里芋の子のような肌合をしていたが、形はそれよりはもっと細長くとがっている。そして細かい棕櫚の毛で編んだ帽子とでもいったようなものをかぶっている。指でつまむとその帽子がそのままですぽりと脱け落ちた。芋の横腹から突き出した子芋をつけているのもたくさんあった。
子供らが見つけてやって来ていじり回した。一つ一つ「帽子」を脱ぎ取って縁側へ並べたり子芋の突起を鼻に見立てて真書き筆でキューピーの顔をかき上げるものもあった。
何か西洋草花の球根だろうと思ったが、なんだかまるで見当がつかなかった。彼はわざわざそれを持って台所で何かしている細君に見せに行ったが、そういう物にはさっぱり興味のない細君はろくによく見る事もしないで、「存じません」と言ったきり相手になってくれなかった。老母も奥の隠居部屋から出て来て、めがねでたんねんに検査してはいたが、結局だれにもなんだかわからなかった。
「ひょっとしたら私の病気にでもきくというのでだれかが送ってくれたのじゃないかしら、煎じてでも飲めというのじゃないかしら」こんな事も考えてみたりした。長い頑固な病気を持てあましている堅吉は、自分の身辺に起こるあらゆる出来事を知らず知らず自分の病気と関係させて考えるような習慣が生じていた。天性からも、また隠遁的な学者としての生活からも、元来イーゴイストである彼の小自我は、その上におおっている青白い病のヴェールを通して世界を見ていた。