本文へ移動
TORENDIA

初孫

本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

貞夫という名の初孫が生まれた一家の様子を綴る。七十歳の祖父が孫を溺愛し、子育てをめぐって天保生まれの祖母と明治生まれの妻が育児論で衝突する滑稽な日常を描く。外国の育児書を読み込み急進的な祖母と、昔風の育児に拘る妻が賑やかに交わす会話、それを温かく見守る一家の平穏で幸せな生活風景を記す。

国木田独歩

速度
🎧 初孫 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 3

この度は貞夫に結構なる御品御贈り下されありがたく存じ候、お約束の写真ようよう昨日でき上がり候間二枚さし上げ申し候、内一枚は上田の姉に御届け下されたく候、ご覧のごとくますます肥え太りてもはや祖父様のお手には荷が少々勝ち過ぎるように相成り候、さればこのごろはただお膝の上にはい上がりてだだをこねおり候、この分にては小生が小供の時きき候と同じ昔噺を貞坊が聞き候ことも遠かるまじと思われ候、これを思えば悲しいともうれしいとも申しようなき感これありこれ必ず悲喜両方と存じ候、父上は何を申すも七十歳いかに強壮にましますとも百年のご寿命は望み難く、去年までは父上父上と申し上げ候を貞夫でき候て後われら夫妻がいつとなく祖父様とお呼び申すよう相成り候以来、父上ご自身も急に祖父様らしくなられ候て初孫あやしホクホク喜びたもうを見てはむしろ涙にござ候、しかし涙は不吉不吉、ご覧候えわれら一家のいかばかり楽しく暮らし候かを、父上母上及びわれら夫妻と貞夫の五人! 春霞たなびく野辺といえどもわが家ののどけさには及ぶまじく候

ここに父上の祖父様らしくなられ候に引き換えて母上はますます元気よろしくことに近ごろは『ワッペウさん』というあだ名まで取られ候て、折り折り『おしゃべり』と衝突なされ候ことこれまた貞夫よりの事と思えばおかしく候、『おしゃべり』と申せば皆様すぐと小生の事に思し召され候わば大違いに候、妻のことに候、あの言葉少なき女が貞夫でき候て以来急に口数多く相成り近来はますますはげしく候、そしてそのおしゃべりの対手が貞夫というに至っては実に滑稽にござ候、先夜も次の間にて貞夫を相手に何かわからぬことを申しおり候間小生、さような事を言うとも小供にはわからぬ少し黙っていておくれと申し候ところ

『ソラごらん、坊やがやかましいことをお言いだから父様のご用のお邪魔になるとサ』

『坊やがやかましいのではないお前がしゃべるのだよ』

『オヤオヤ今度は母様がしかられましたよ、ね坊や父様が、「やかましッ」て、こわいことねえ、だから黙ってねんねおし』

「困るね、そんな事を言っても坊にゃわからないのだからお前さえ黙ればいいんだよ』

国木田独歩の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本