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TORENDIA

運命論者

本文約17,300字 ・ 読了時間 約35分

あらすじ(AIが作成しました)

秋の鎌倉の海浜で、砂山に座り読書をしていた語り手は、見知らぬ紳士と出会う。紳士は砂の中に隠したブランデーを密かに飲むという奇妙な秘密を明かし、自身の過酷な身の上を語り始める。実父の大塚剛蔵との葛藤や、実母が父の仇であるという事実、さらに妻との忌まわしい血縁関係について吐露する。彼は逃れられぬ血の宿命に苦悩し、酒に溺れることでしか耐えがたい現実から逃避できないまま、孤独に沖を見つめ続ける。

国木田独歩

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一

秋の中過、冬近くなると何れの海浜を問ず、大方は淋れて来る、鎌倉も其通りで、自分のように年中住んで居る者の外は、浜へ出て見ても、里の子、浦の子、地曳網の男、或は浜づたいに往通う行商を見るばかり、都人士らしい者の姿を見るのは稀なのである。

或日自分は何時のように滑川の辺まで散歩して、さて砂山に登ると、思の外、北風が身に沁ので直ぐ麓に下て其処ら日あたりの可い所、身体を伸して楽に書の読めそうな所と四辺を見廻わしたが、思うようなところがないので、彼方此方と探し歩いた、すると一個所、面白い場所を発見けた。

砂山が急に崩げて草の根で僅にそれを支え、其下が崕のようになって居る、其根方に座って両足を投げ出すと、背は後の砂山に靠れ、右の臂は傍らの小高いところに懸り、恰度ソハに倚ったようで、真に心持の佳い場処である。

自分は持て来た小説を懐から出して心長閑に読んで居ると、日は暖かに照り空は高く晴れ此処よりは海も見えず、人声も聞えず、汀に転がる波音の穏かに重々しく聞える外は四囲寂然として居るので、何時しか心を全然書籍に取られて了った。

然にふと物音の為たようであるから何心なく頭を上げると、自分から四五間離れた処に人が立て居たのである。何時此処へ来て、何処から現われたのか少も気がつかなかったので、恰も地の底から湧出たかのように思われ、自分は驚いて能く見ると年輩は三十ばかり、面長の鼻の高い男、背はすらりとした形、衣装といい品といい、一見して別荘に来て居る人か、それとも旅宿を取って滞留して居る紳士と知れた。

彼は其処につッ立って自分の方を凝と見て居る其眼つきを見て自分は更に驚き且つ怪しんだ。敵を見る怒の眼か、それにしては力薄し。人を疑う猜忌の眼か、それにしては光鈍し。たゞ何心なく他を眺る眼にしては甚[#「甚」は底本では「其」]だ凄味を帯ぶ。

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