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TORENDIA

丘の上

本文約11,000字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

真夏の日の光が降り注ぐ丘の上で、男女は互いの不安や過去の出来事を打ち明ける。二人はかつて経験した死の光景や、夢から覚めたかのような微笑みに触れながら、この場所に漂う明るい日差しに心を救われる。先の見えない未来への戸惑いを抱えつつも、彼らは互いを求め合い、輝く光を頼りに共に微笑みながらこの場所を歩き続けることを誓う。生と死の記憶を背景に、二人の抱く微かな希望を描く。

豊島与志雄

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丘の上には、さびれた小さな石の堂があって、七八本の雑木が立並んでいた。前面はただ平野で、部落も木立も少く、農夫の姿も見えない、妙に淋しい畑地だった。遠くに一筋の街道が、白々と横たわっていた。その彼方、暗色に茫とかすんでる先に、帯を引いたような、きらきら光ってる海が見えていた。

その丘の上の、木立の外れの叢の上に、彼等は腰を下した。枝葉の密なこんもりと茂った白樫が、濃い影を落していてくれた。彼は帽子とステッキとを傍に投り出して、ハンカチで顔を拭いた。汗を拭き去られたその額が、蒼白かった。が彼女の顔は、白樫の葉裏の灰白色の反映を受けてか、更に蒼白かった。眼を伏せて、日傘の柄を膝の上でもてあそんでいた。

どこにも入道雲の影さえ覗き出していないのが、不思議だと思われるくらいに、空はあくまで晴れ渡って、真夏の日の光が、あたり一面に、そして眼の届く限り一面に、じりじり照りつけていた。淋しい蝉の声が、木立の中に封じこまれていた。乾燥しきった微風が、ゆるく流れていった。

「あああれですね。」

「ええ。」

「いつもあんなですか。」

「晴れた日は大抵光っていますの。そして夜になると、篝火が見えるんですって。」

「漁船の……。」

「ええ。」

「全く妙な景色だ……。」

「どうして。」

「草藪ばかりの、上に七八本の木立があるきりの、平凡な丘と、ただ平らな畑の眺めと、それだけじゃありませんか。それが先の方へいって、地平線のところに、帯のような海がきらきら光ってる……。」

「だからあたし、一飛びにあすこまで飛んでいきたいと、いつもそう思うんですの。」

「だって、時々海へはいりに出かけるんでしょう。」

「………」

「怒ったんですか。」

「………」

「御免なさい。何も……そんなつもりで云ったんじゃないんです。」

「だって、あんまりですもの。」

「然しわたしはそう思うんですよ。ここから見ると、海はあんなに光ってるが、側へ行ってみると、やはりただの平凡な海に過ぎない……。」

「海はそうですけれど……。」

「海とは違うと言うんですか。だけど結局は、やはり同じじゃありませんか。」

「いいえ、違ってよ。」

「じゃあどう違うんでしょう。」

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