TRENDIA CLASSIC

丘の上

豊島与志雄

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丘の上には、さびれた小さな石の堂があって、七八本の雑木が立並んでいた。前面はただ平野で、部落も木立も少く、農夫の姿も見えない、妙に淋しい畑地だった。遠くに一筋の街道が、白々と横たわっていた。その彼方、暗色に茫とかすんでる先に、帯を引いたような、きらきら光ってる海が見えていた。

その丘の上の、木立の外れの叢の上に、彼等は腰を下した。枝葉の密なこんもりと茂った白樫が、濃い影を落していてくれた。彼は帽子とステッキとを傍に投り出して、ハンカチで顔を拭いた。汗を拭き去られたその額が、蒼白かった。が彼女の顔は、白樫の葉裏の灰白色の反映を受けてか、更に蒼白かった。眼を伏せて、日傘の柄を膝の上でもてあそんでいた。

どこにも入道雲の影さえ覗き出していないのが、不思議だと思われるくらいに、空はあくまで晴れ渡って、真夏の日の光が、あたり一面に、そして眼の届く限り一面に、じりじり照りつけていた。淋しい蝉の声が、木立の中に封じこまれていた。乾燥しきった微風が、ゆるく流れていった。

「あああれですね。」

「ええ。」

「いつもあんなですか。」

「晴れた日は大抵光っていますの。そして夜になると、篝火が見えるんですって。」

「漁船の……。」

「ええ。」

「全く妙な景色だ……。」

「どうして。」

「草藪ばかりの、上に七八本の木立があるきりの、平凡な丘と、ただ平らな畑の眺めと、それだけじゃありませんか。それが先の方へいって、地平線のところに、帯のような海がきらきら光ってる……。」

「だからあたし、一飛びにあすこまで飛んでいきたいと、いつもそう思うんですの。」

「だって、時々海へはいりに出かけるんでしょう。」

「………」

「怒ったんですか。」

「………」

「御免なさい。何も……そんなつもりで云ったんじゃないんです。」

「だって、あんまりですもの。」

「然しわたしはそう思うんですよ。ここから見ると、海はあんなに光ってるが、側へ行ってみると、やはりただの平凡な海に過ぎない……。」

「海はそうですけれど……。」

「海とは違うと言うんですか。だけど結局は、やはり同じじゃありませんか。」

「いいえ、違ってよ。」

「じゃあどう違うんでしょう。」

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