TRENDIA CLASSIC

豊島与志雄

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寝台車に一通り荷物の仕末をして、私は食堂車にはいっていった。暑くてとても眠れそうになかったので、ビールの助けをかりるつもりだった。ビールを飲めば、後で却って暑くなることは分っていたが、どうせ暑いんだから、多少酔った方がごまかしがつく……とそう考えたのだった。

食堂の中はこんではいなかったが、それでも五六人の客が、方々の卓子で、酒を飲んだり料理を食ったりしていた。私は片隅の方に腰かけて、一寸した料理とビールとを取った。丁度箱根の山にさしかかったところなので、窓は開けられなかったが、煽風器の風のあおりで、いくらか涼味があった。

そこで出来るだけゆっくり時間をつぶして、それから喫煙室にはいってみた。夜更けのことで誰もいなかったので、そこでまた暫く時間をつぶした。

いつまでそうしてもおれないので、自分の寝台へ戻っていった。どの寝台も寝静まって、カーテンがはたはたと揺めいているきりだった。

ところが、私は喫驚して立止った。中程に一つぽかんと口を開いてる私の寝台の、すぐ上の段のカーテンの裾のところから、こちら向きに、人の足がぶら下っていた。膝から先だけのむき出しな片足で、だらりと垂れ下って、それが列車の動揺につれて、ゆらゆら……ゆらゆら……手招きでもするように動いていた。

よく見ると、死人の足でもなさそうだった。

寝呆けてるんだな。

そう思ったとたんに、足が寝呆けてると口の中でくり返して、私は一人で可笑しくなった。

が不思議な足だった……というよりも、初めてつくづくと眺めたので、不思議だったのかもしれない。

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