足
本文約4,000字 ・ 読了時間 約8分
あらすじ(AIが作成しました)
寝台列車の夜、上の寝台のカーテンから男の片足がぶら下がっているのを見つけた「私」は、不気味な光景に妖怪の類ではないかと不安を抱く。翌朝、隣席に座った男が、慢性的な胃病による足のだるさから膝の下に物を当てて寝る癖があり、寝返りで鞄から足が滑り落ちてしまったのだと謝罪する。男の病的な痩せ細った様子と、何気ない習慣に潜む奇妙な光景に、私はどこか言いようのない憂鬱と困惑を覚えながら、男が去った後の車窓を眺める。
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寝台車に一通り荷物の仕末をして、私は食堂車にはいっていった。暑くてとても眠れそうになかったので、ビールの助けをかりるつもりだった。ビールを飲めば、後で却って暑くなることは分っていたが、どうせ暑いんだから、多少酔った方がごまかしがつく……とそう考えたのだった。
食堂の中はこんではいなかったが、それでも五六人の客が、方々の卓子で、酒を飲んだり料理を食ったりしていた。私は片隅の方に腰かけて、一寸した料理とビールとを取った。丁度箱根の山にさしかかったところなので、窓は開けられなかったが、煽風器の風のあおりで、いくらか涼味があった。
そこで出来るだけゆっくり時間をつぶして、それから喫煙室にはいってみた。夜更けのことで誰もいなかったので、そこでまた暫く時間をつぶした。
いつまでそうしてもおれないので、自分の寝台へ戻っていった。どの寝台も寝静まって、カーテンがはたはたと揺めいているきりだった。
ところが、私は喫驚して立止った。中程に一つぽかんと口を開いてる私の寝台の、すぐ上の段のカーテンの裾のところから、こちら向きに、人の足がぶら下っていた。膝から先だけのむき出しな片足で、だらりと垂れ下って、それが列車の動揺につれて、ゆらゆら……ゆらゆら……手招きでもするように動いていた。
よく見ると、死人の足でもなさそうだった。
寝呆けてるんだな。
そう思ったとたんに、足が寝呆けてると口の中でくり返して、私は一人で可笑しくなった。
が不思議な足だった……というよりも、初めてつくづくと眺めたので、不思議だったのかもしれない。