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TORENDIA

不肖の兄

本文約18,800字 ・ 読了時間 約38分

あらすじ(AIが作成しました)

不肖の兄と蔑まれる「僕」が、妹・敏子と友人・浜地の結婚を巡り、家族との確執や自身の人生観を綴った書簡形式の物語。兄との激しい言い合いや母親との対話を通じて、自身の内に抱える虚無感や、凡庸な家庭生活への複雑な反発を露わにする。自己の在り方に苦悩しつつも、最後には妹の幸福を願い、その未来を見据えながら、自身の本質的な孤独と向き合う姿を描く。

豊島与志雄

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敏子

なぜ泣くんだ。何も泣くことはありゃしない。嬉しいのか、悲しいのか……いや兎に角、こんな時に泣く奴があるものか。

僕も悪かった。がそりゃあ、皆が云う通りの不肖の兄、そういう僕なんだから、おかしな理屈だが、まあ名前に免じて許してくれよ。

僕は知らなかったんだ、お前と浜地との間を……あの翌朝まで。薄々は分ってたようにも後では思えるが、全く、翌朝初めて母から聞いてはっきり分ったのだった。

可笑しな朝だったよ。

さすがに僕だって、前夜のことがぼんやり気にかかって、ぼんやりしてるだけにちょっと弱らされた。それで、十一時頃まで寝床の中に愚図ついていて、起き上るとすぐに、酒を飲むと云い出してみた。

「え、お酒。」

言葉と一緒に息をつめて、さも呆れ返ったように母が見つめてきたので、僕は一寸首をすくめたが、すぐに眉根をしかめてごまかしてやった。

「ええ。何だか頭痛がするようだから、少しでいいんです。一本……つねや、」と僕は女中を呼んだ、「つねや、大急ぎ、一本お燗をするんだよ。」

「まあ、お前はほんとに……。昨晩あれほど飲んでおいて、その上まだ飲むつもりなんですか。」

「だから、一寸、すこうし……変に頭が痛くって……本当ですよ。」

そんなことが信じられるものですか、というような母の顔付だったが、それでも機嫌はさほど悪そうでもなかった。うまくいった、と僕は思った。

ところが、朝食の膳に向って、一人でちびちび、苦い味を我慢して飲み初めると、母は飯櫃の横に控えて、じっと僕の方を見守ってきた。

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