死ね!
本文約8,900字 ・ 読了時間 約18分
あらすじ(AIが作成しました)
金銭的な困窮と負債を抱えながらも、常に「今に働く」と公言して怠惰に日々を過ごす文学者の友人。ある晩、作者は借金苦から死をほのめかす彼と再会し、その愛人である芸者の千代子と共に心中を想起させるような危うい関係を目の当たりにする。自身の内面に深く根ざした彼への愛着と、社会や生に対して自然な姿勢を貫こうとする彼の生き方との間で葛藤しながら、作者は彼らを見つめ、複雑な苛立ちと哀惜の念を深めていく。
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私と彼とは切っても切れない縁故があるのだが、逢うことはそう屡々ではない。私はいつもひどく忙しい。貧乏で、わき目もふらず働き続けなければ、飯が食えないのだ。ところが彼は、いつも隙だ。のんきに、夢想したり、歩き廻ったり、酒を飲んだりして、日を送っている。それかって、財産があるわけではない。私に金銭上の迷惑をかけたことも度々ある。「人の厄介になるよりは、なぜ自分で働かないんだ、」と私はいうのだけれど、彼はいつも平然と答える、「今に働くよ。」それが、口先だけのものではなくて、心の底から信じきっているらしい誠実さがこもってるので、私はつい、その「今に」を信ずることになる。だが、それは、いつまでも現在になることがなく、先へ先へと延期されていく。太陽を背中にした時の影法師みたいなものだ。進むだけ先へ進む。然し彼は、それをむりに追い捕えようともしない。そしてのんきに、ぶらぶらしている。どうやりくりしているのか、苦労の影さえない。それがどうも私には不思議だ。だけど、彼のその秘密にばかり関わってるほどの余裕は、私にはない。私は日々のパンのために忙しいのだ。そして忙しい者と隙な者とは、そう屡々逢えないものらしい。機会のくいちがいといったようなものがあるのだろう。
ところが、或る晩、彼に不思議なところで出逢った。
私はいくら忙しいといっても、毎日朝から晩まで働きづめでいるわけではない。そんなことは人間として出来るものではない。たまには肉体的息ぬき、精神的保養も、必要である。そんな意味で、ばかげた酒を飲んで、すっかり酔った。風がなく、なま暖く、空はぼんやり霞んでいそうな気配。外を歩いていると、家の中にはいるのが息苦しく思われるような晩だ。こんな時には、病院ではきっと誰かが死ぬ。