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TORENDIA

影

本文約4,400字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

夫が朝鮮へ旅立ち、新しい貸家に移り住んだ叔母と幼い子供たち。高輪にあるその新居で手伝いをしていた「私」は、叔母から家が陰気で息苦しいと聞かされる。ある夜、電灯が消えた室内で「私」が子供たちと影人形遊びに興じていると、奇妙な出来事が続く。やがて夜が更け、家中に静寂が漂う中、玄関先で誰かが戸を叩く音を耳にする。正体不明の影の気配に怯えた「私」は、叔母とともにこの家の不気味な雰囲気へと次第に飲み込まれていく。

豊島与志雄

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🎧 影 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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叔父達が新らしい家へ移転してすぐに、叔父は或る公務を帯びて、二ヶ月ばかり朝鮮の方へ旅することになりました。勿論この旅行は前から分っていましたが、その出発の間際に、前々から探していた適当な貸家が見当ったので、慌しく其処へ引越して、まだ荷物もよく片付かない三日目の朝、叔父は特急の列車で朝鮮へ出発しました。そして新らしい家の中には、叔母と八歳になる千代子と、五歳になる繁と、顔の真円い女中とが、ごたごたしてる荷物と一緒に残されたのです。

その頃私は、本郷に下宿して高等学校に通っていました。叔父一家の引越の時は、その高輪の家へ、夕方から夜の十時頃まで手伝いに行きました。実は泊りがけで学校も休んで手伝いたかったのですが、私用のために学校を休ましては国の御父さんに済まないと、厳格な叔父が命令的に云うものですから、それに従っていました。所が叔父の出発の日は、暗黙の許可で学校を休んで、品川駅まで見送りをして、それから叔母達と一緒に高輪の家へ帰りました。何しろ叔父の旅の方の用事が多かったものですから、家の中はまだちっとも片附いていませんでした。それで、半ばは私の方から願い、半ばは叔母の方から願う形で、私は二三日学校を休んで手伝ってゆくことにしました。はっきりした口実の下に公然と学校を休んで、好きな叔母と無駄話などしながら、のらくらと家具なんかを弄って、そして晩にはうまい御馳走になり、おまけにいくらかの――学生の身には可なり有難い額の――小遣を貰う日当があるんですから、実にいい機会だったのです。

所が叔母の方にも、単に私から手伝って貰うということ以外に、私を引止めたい他の理由があったらしいのです。「この家をどう思いますか、」と尋ねておいてから、こんなことを云い出したのです。

「日当りのよい割合に、何だか陰気な変な家ですよ。妙に息苦しい気がして夜中に眼を覚すと、それから頭のしんが冴えて、どうしても寝つかれません。そんなことが、引越してきた翌晩――一昨日の晩も、昨晩も、あったのですよ。」

私は叔母の蒼白い顔を眺めながら答えました。

「それは引越に疲れたせいでしょう。」

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