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TORENDIA

蜘蛛

本文約3,600字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

蜘蛛は過敏な近代人の神経と、大地に根差した肉食的な野性を併せ持つ興味深い動物である。都会の庭に玉川から連れ帰った女郎蜘蛛を放ち、その精緻な巣作りや餌を狩る姿を観察する喜びを綴る。しかし、庭には赤蜂が飛来し、美しい色彩を持つ女郎蜘蛛は次々と襲われていく。本作は、女郎蜘蛛を執拗に攻撃する赤蜂と、それを守ろうとする観察者の葛藤や、蜘蛛に対する著者の愛着と独自の視点を通じ、都会の庭における自然の営みを描く。

豊島与志雄

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🎧 蜘蛛 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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蜘蛛は面白い動物である。近代人的な過敏な神経と、偉人的な野性と、自然的な神秘さとを具えている。

近代人の神経は、何かしら不健康で不気味である。本物の動物的なものから根こぎにされたような趣きがある。運動的知覚がひどく鈍く、感情的知覚がひどく鋭い。この運動の方面の知覚と感情の方面の知覚とが、不均衡になればなるほど、益々病的に不気味になってゆく。――蜘蛛を見てもそういう感じがする。始終巣の真中にじっとして餌物を待ちすましてるところは、苛ら苛らしながら日向ぼっこをしてる近代人の俤がある。そして巣の僅かな微動にも緊張した神経が震えおののく様は、単なる触知でなしに、感情的知覚の域にまでふみこんでる概がある。あのものぐさと敏感さとには、何かしら病的な不気味なものがある。

偉人は凡て野性を有するというのは、否、野性を有していなければ偉大な仕事は出来ないというのは、私の持論である。都会人的な巧妙さと精緻さとでは、大きな仕事は成されない。野性と云うのに語弊があるならば、大地の中に根を張ってつっ立ってる力とでも云うような、何かしら人為的でない後天的でない本質的な力である。トルストイやバルザックやセークスピアの偉大さは、そういう力に依ってるところが多い。トルストイが如何に無抵抗の宗教を説こうと、彼の力は畢竟肉食的な野蛮な力の上に立っている。――蜘蛛にはそういった野性がある。彼が如何に精巧な巣を張ろうと、如何に過敏な神経を持っていようと、それは到底文明的な所産ではない。文明的な所産となりきれないほど、彼のうちには肉食的な野性がある。細い糸に懸って空に浮んでいても、地を這う虫けらよりも、遙に大地的であり遙に野性的である。

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