ジャングル頭
本文約3,400字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
新宿や上野に実在する混沌とした空間をジャングルと呼び、それになぞらえて、現代の女性が好む過剰に膨らませた髪型や、青年たちの思念が複雑に絡まり合う精神状態を批判的に考察する。また、戦争体験を美化して語る風潮や、柔軟な思考を欠いた頑迷な思想を持つ人々をジャングル頭と定義し、暴力の温床となり得るその危険性を指摘する。真の信念を持つことの重要性を説き、日本が戦争を放棄し平和を築くためには、こうした硬直した精神的ジャングルを追放すべきであると論じる。
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夜の東京の、新宿駅付近や、上野不忍池付近は、一種のジャングル地帯だと言われる。酔客、ヨタモノ、パンスケ、男娼、などなどの怪物が横行していて、常人は足をふみ入れかねる。このジャングルを、一夜、警官の案内で坂口安吾は探検した。
だが、ジャングルは他にもある。近頃の若い婦人の頭髪を御覧なさい。パーマの長髪を、頭の二倍大、三倍大にふくらまして、颯爽と五月の風になびかしてる、と言いたいところだが、実は、ただもじゃもじゃ、くしゃくしゃ、後頭部から肩へ引っかついでるだけで、雀の巣どころの代物ではなく、全くのジャングルだ。
これが、頸筋のすっきりした長身の体躯ならば、まだよい。然し不幸なことには、彼女等の多くは、お尻だけは比較的大きいかも知れないが、胴体も寸づまり、脚も寸づまりのちんちくりんなのである。たとえ、ハリウッド好みのワンピース、ツーピースをまとい、ハンドバッグの革紐を肩にかけ、ハイヒールの上に反りかえろうと、その矮小な体躯は、所詮、ごまかせるものではない。そして徒らに、頭髪のジャングルだけが大きく目立つ。言わば髪の毛の化物なのだ。
こんなのを、ジャングル頭と言う。
彼女等は、自分の立姿を鏡に写して見たことがあるであろうか。鏡で見るのは、恐らく、顔とか髪とか襟元とか、部分的なものばかりであろう。もし立姿全体を、鏡で見るとか、或るいは障子に写った影絵で見るならば、そのお化け然たる恰好に、自分でもぞっとすることだろう。知らぬが幸だ。
これは、然し、外観だけのことである。そのジャングルを押し分け、頭脳の内部にまでふみ込んでみるならば、そこも、恐らくはひどいジャングルであろう。情意の涸渇、志操の頽廃、傲慢な功利主義と享楽主義。毒気ばかりが立ちこめて、清純な花の咲く余地はあるまい。