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TORENDIA

彗星の話

本文約3,600字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

ギリシャの片田舎に暮らす少年ケメトスは、祖父から自身が生まれた時に星が流れたという不吉な運命を聞かされる。少年は自らの運命を変えるべく身軽さを活かした飛び降りの練習に励み、その技は評判を呼んで国王に仕えるまでとなる。やがて名声を求めたケメトスは、高さ三百尺の塔から炬火を手に夜空へと飛び降りる。その姿は長く尾を引く彗星のように見え、伝説として人々の語り草となる。

豊島与志雄

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🎧 彗星の話 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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一

むかし、ギリシャの片田舎に、ケメトスという人がいました。小さい時に両親を失って、お祖父さんの手で育てられていましたが、非常な乱暴者で、近所の子供達と喧嘩をしたり、他人の果樹園に忍び込んで、林檎や無花果の実を盗んだり、野山を駆け廻ったりして、その日その日を遊び暮らしていました。

お祖父さんは非常に心配して、いろいろ言い聞かせましたけれど、ケメトスは耳にも入れませんでした。

空に星がいっぱい輝いてるある晩、お祖父さんが庭を歩いていますと、上から石ころみたいなものが飛んできて、すぐ前に落ちました。拾い上げてみると、それは大きな林檎でした。お祖父さんはびっくりして、林檎が飛んできた方を仰ぎ見ました。すると、そこの屋根の上にケメトスが、星の光で林檎をかじりながら、にこにこ笑っていました。――そんなことが何度もありました。

「ケメトスの行末が気になる」とお祖父さんは眉をひそめました。

お祖父さんは考えたすえ、ある時ケメトスを側に呼んで、今まで隠していたことを話してきかせました。

「ケメトスや、わしの言うことをよく聞くがよい。……お前が生まれる時に、わしは庭に出ていた。空一面に星が輝いてる晩だった。お前が無事に生まれるようにと心で祈りながら、ぼんやり空を見上げていた。すると、一際強く光ってる星がわしの眼にとまった。しばらくすると、その星がすーっと流れて、瞬くまに消え失せてしまった。ちょうどその時に、家の中から、お前の産声が聞こえてきたのだ。

わしには、そのことがいつまでもわすれられない。星が流れるのは、ことに一際輝いてる星が流れるのは、悪い知らせなのだ。お前が生まれる時に星が流れたのは、お前の運命がよくないという知らせだ。

だが、運命というものは、ある点まで自分の手でこしらえ直すことが出来る。わしのように老人になると、そのことがはっきりわかるのだ。自分の運命を自分の手でよくなしてゆくことが、人間の一番大切な仕事なのだ。[#「なのだ。」は底本では「なのだ」]

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