TRENDIA CLASSIC

田園の幻

豊島与志雄

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「おじさん、砂糖黍たべようか。」

宗太郎が駆けて来て、縁側に腰掛け煙草をふかしている私の方を、甘えるように見上げた。私に食べさせるというより、自分が食べたそうな眼色である。

「だって、君んとこに、砂糖黍作ってないじゃないか。」

「うん、貰って来るよ。今日はお祭りだから、誰も叱りゃしない。」

先日、夕食後の散歩の時、宗太郎が砂糖黍を二本折り取ってきて、私に食べさせたが、それがよその畑のもので、あとで小言が来た。それでも、東京からのお客さんに食べさせるためだったということで、ああそうか、と済んでしまった。おかげで、私は十本ばかり高値に買わせられた。東京からのお客さんには、へんな特権があるらしい。

日没後の残照の中に夕靄がたなびき、靄が薄らぐと共に明るみも薄らぎ空の星が光りを増してくる。

ドーン、ドーン、ドンドコドン、ドーン、ドーン……

太鼓の音がするようだ。耳をすますと、果して、八幡様の森の方で太鼓の音がしている。もうお祭りが初まるのであろう。

宗太郎が砂糖黍を二本かついで来た。まだ若くて、根本の方にしか甘みはない。私がジャック・ナイフを出してやると、彼は砂糖黍を一節ずつ器用に切った。

堅い表皮を歯でむいて、まだ薄皮の残っているやつを噛みしめるのである。青ぐさい仄かな甘みが、砂糖のあくどさと違って、野の幸を思わせる。

「お父さんどうしてるんだろう。」

砂糖黍の噛み滓を吐き出し、太鼓の音に聞き耳を立てて、宗太郎は呟いた。投網の夜打ちが済んだら、彼は八幡様のお祭りに行くつもりなのである。

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