TRENDIA CLASSIC
田園の幻
豊島与志雄
1 / 10
「おじさん、砂糖黍たべようか。」
宗太郎が駆けて来て、縁側に腰掛け煙草をふかしている私の方を、甘えるように見上げた。私に食べさせるというより、自分が食べたそうな眼色である。
「だって、君んとこに、砂糖黍作ってないじゃないか。」
「うん、貰って来るよ。今日はお祭りだから、誰も叱りゃしない。」
先日、夕食後の散歩の時、宗太郎が砂糖黍を二本折り取ってきて、私に食べさせたが、それがよその畑のもので、あとで小言が来た。それでも、東京からのお客さんに食べさせるためだったということで、ああそうか、と済んでしまった。おかげで、私は十本ばかり高値に買わせられた。東京からのお客さんには、へんな特権があるらしい。
日没後の残照の中に夕靄がたなびき、靄が薄らぐと共に明るみも薄らぎ空の星が光りを増してくる。
ドーン、ドーン、ドンドコドン、ドーン、ドーン……
太鼓の音がするようだ。耳をすますと、果して、八幡様の森の方で太鼓の音がしている。もうお祭りが初まるのであろう。
宗太郎が砂糖黍を二本かついで来た。まだ若くて、根本の方にしか甘みはない。私がジャック・ナイフを出してやると、彼は砂糖黍を一節ずつ器用に切った。
堅い表皮を歯でむいて、まだ薄皮の残っているやつを噛みしめるのである。青ぐさい仄かな甘みが、砂糖のあくどさと違って、野の幸を思わせる。
「お父さんどうしてるんだろう。」
砂糖黍の噛み滓を吐き出し、太鼓の音に聞き耳を立てて、宗太郎は呟いた。投網の夜打ちが済んだら、彼は八幡様のお祭りに行くつもりなのである。
豊島与志雄の他の作品
TRENDIA CLASSIC
小説集「白い朝
」後記
豊島与志雄
小説集「白い朝」後記
豊島与志雄 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
随筆評論集「書
かれざる作品」
後記
豊島与志雄
随筆評論集「書かれざる作品」後記
豊島与志雄 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
秋の気魄
豊島与志雄
秋の気魄
豊島与志雄
TRENDIA CLASSIC
秋の幻
豊島与志雄
秋の幻
豊島与志雄
TRENDIA CLASSIC
悪魔の宝
豊島与志雄
悪魔の宝
豊島与志雄
TRENDIA CLASSIC
浅間噴火口
豊島与志雄
浅間噴火口
豊島与志雄
TRENDIA CLASSIC
悪夢
豊島与志雄
悪夢
豊島与志雄
TRENDIA CLASSIC
朝やけ
豊島与志雄
朝やけ
豊島与志雄
TRENDIA CLASSIC
足
豊島与志雄
足
豊島与志雄
TRENDIA CLASSIC
明日
豊島与志雄
明日
豊島与志雄
TRENDIA CLASSIC
アフリカのスタ
ンレー
豊島与志雄
アフリカのスタンレー
豊島与志雄
TRENDIA CLASSIC
新たな世界主義
豊島与志雄
新たな世界主義
豊島与志雄