TRENDIA CLASSIC

囚われ人

豊島与志雄

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或るコンクリー建築の四階の室。室内装飾は何もないが、ただ、大きな電灯の円笠が天井からぶらさがっていて、室中に明るみを湛えている。片側だけ窓で、窓の外は闇夜。全体が箱の中のような感じ。室の一方に、巨大な円卓があって、その端寄りに数人の男女が集まっている。彼等と向い合って、室の他方に、四角な小卓があり、正夫が坐っている。正夫はたいてい卓上に顔を伏せていて、ごく稀にしか顔を挙げない。――この一篇、単に寓話であって、戯曲ではないから、人物の言語動作、唐突なこと多く、謂わば人形芝居めいた雰囲気。その上、正夫に対して大円卓の正面に坐っている一人の男だけが、通常の人間の恰好で、その周囲にいる男女たちは、なんだか畸形的なグロテスクな様子。どんなことになってゆくのか、私(筆者)にも見当はつかない。というのは、この箱のような室内の一隅に、私はたまたま居合せていたに過ぎないからである。長い沈黙。正夫、立ち上って伸びをし、また腰を下して、卓上に顔を伏せる。円卓の正面の男、議一が声をかける。

議一――正夫君、退屈してるようだね。退屈は人生の最大の悪だ。そういう言葉を覚えてるだろうね。だが、まあいいや。君には、この前逢った時から、其後、一度も逢わなかったね。この前逢った時から其後一度も逢わなかったというのは、変な言い方だが、僕の実感としては真実なんだ。ずいぶん久し振りだった。変りはないかね。僕も……いや僕たちと言おう。文化会議の仲間で、ここにいるのは僕一人だが、一同を代表して言うよ。そこで、僕たちも、相変らずだ。但し、相変らずということが、停滞を意味するならば、相変らずではないと言い直さなければならない。会合毎に、一歩一歩前進してるからね。

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