本文へ移動
TORENDIA

火星の芝居

本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

ある夜、火星へ行って芝居を見たという男が、その驚異的な光景を友人に語る。青い石で築かれた無際限に高い壁がどこまでも続く花道や、巨大な烏帽子を冠った火星の俳優たちの様子、さらに数十億人の観客が花道を通る長大な準備の過程を次々と披露する。現実の舞台とはかけ離れたスケールの法螺話や夢の情景を通じて、語り手である男の奇抜な想像力と火星の芝居を巡る幻想的な会話を綴る。

石川啄木

速度
🎧 火星の芝居 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 2

『何か面白い事はないか?』

『俺は昨夜火星に行って来た』

『そうかえ』

『真個に行って来たよ』

『面白いものでもあったか?』

『芝居を見たんだ』

『そうか。日本なら「冥途の飛脚」だが、火星じゃ「天上の飛脚」でも演るんだろう?』

『そんなケチなもんじゃない。第一劇場からして違うよ』

『一里四方もあるのか?』

『莫迦な事を言え。先ず青空を十里四方位の大さに截って、それを圧搾して石にするんだ。石よりも堅くて青くて透徹るよ』

『それが何だい?』

『それを積み重ねて、高い、高い、無際限に高い壁を築き上げたもんだ、然も二列にだ、壁と壁との間が唯五間位しかないが、無際限に高いので、仰ぐと空が一本の銀の糸の様に見える』

『五間の舞台で芝居がやれるのか?』

『マア聞き給え。その青い壁が何処まで続いているのか解らない。万里の長城を二重にして、青く塗った様なもんだね』

『何処で芝居を演るんだ?』

『芝居はまだだよ。その壁がつまり花道なんだ』

『もう沢山だ。止せよ』

『その花道を、俳優が先ず看客を引率して行くのだ。火星じゃ君、俳優が国王よりも権力があって、芝居が初まると国民が一人残らず見物しなけやならん憲法があるのだから、それはそれは非常な大入だよ、そんな大仕掛な芝居だから、準備にばかりも十カ月かかるそうだ』

『お産をすると同じだね』

『その俳優というのが又素的だ。火星の人間は、一体僕等より足が小くて胸が高くて、そして頭が無暗に大きいんだが、その中でも最も足が小くて最も胸が高くて、最も頭の大きい奴が第一流の俳優になる。だから君、火星のアアビングや団十郎は、ニコライの会堂の円天蓋よりも大きい位な烏帽子を冠ってるよ』

『驚いた』

『驚くだろう?』

『君の法螺にさ』

『法螺じゃない、真実の事だ。少くとも夢の中の事実だ。それで君、ニコライの会堂の屋根を冠った俳優が、何十億の看客を導いて花道から案内して行くんだ』

『花道から看客を案内するのか?』

『そうだ。其処が地球と違ってるね』

『其処ばかりじゃない』

石川啄木の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本