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TORENDIA

明治開化 安吾捕物

本文約26,000字 ・ 読了時間 約53分

あらすじ(AIが作成しました)

大学生の長男由也が残る母里大学の邸で、凄まじい雷雨の夜に召使いの三枝子が姿を消す。現場には青磁や柿右衛門の皿が割られ、裏庭の井戸からは深夜に水音が響いた。不審な足跡や時田の落とした眼鏡など、複数の物証が残されるなか、結城新十郎は事件の背後に由也が時田を巻き込んで練り上げた恐るべき計画があったことを推理する。本作は、明治時代の東京を舞台に、複雑に絡み合う人間の悪意と偽装工作を鮮やかに解き明かす捕物帖を描く。

坂口安吾

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雷ギライという人種がある。まア人間は普通カミナリがキライのようだが、特別キライという人種があって、私の知人にもカミナリがキライで疎開このかた伊東の地に住みついてしまった人がある。伊東は年に四、五回、遠雷がかすかにカミナリのマネをしてみせる程度で、片道三時間の通勤は不便だが、ヘソをぬかれる心配のない平和に替えられないと彼は云っている。

なるほど東京はカミナリの多いところだ、私は矢口の渡しに住んでいたころ、処によると物凄いカミナリになやまされたものだ。矢口のカミナリは武蔵新田の新田神社へ落ちる、とあの辺の人々は信じている。人々は新田の神様の悲しくて荒々しい最期にむすびつけての意味を含ませて云うのかも知れぬが、事実あの杜へはよく落ちる。戦争で新田神社の杜が吹きとばされて消滅したから、カミナリも戸惑ってるだろう。矢口のカミナリは主として大山の方角に発生した雷雲が横浜経由でのりこんでくるのである。一ツの地域へ五六年もすめば、それぐらいのことは分るようになる。

ところが伊東の地へ住みついた雷ギライの先生にはおどろいたが、雷ギライというものは、こんなに猛烈なものでしょうか。彼は東京のカミナリ地図というものを自分でこしらえて所持している。東京を襲う雷雲はどこどこに発生するか。雷雲は各自その進路が一定しているそうで、彼は東京のあらゆるカミナリの進路をしらべあげて、時として進路の変化がある場合はもちろんのこと、どこへ落ちたか、約二十年間にわたって東京のカミナリのあばれた跡が一目で分るようになっている。かりに二十年間に同一地点に発生する雷雲が五百回あったとして、三百回以上同一進路に当った地区は赤色、百回以上がダイダイ色、五十回以上が黄色、十回以上が薄ミドリというように色分けになっていて、この地図を見ると、他の雷雲に二重、三重に見舞われる地域もあるし、まれにどのカミナリの進路にもかからない小さな谷間のようなのもあって、これをカミナリ相手の隠れ里というのであろうか。

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