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TORENDIA

貞操問答

本文約198,900字 ・ 読了時間 約398分

あらすじ(AIが作成しました)

父を亡くし経済的に困窮する新子は、家計を切り盛りしながら、生活実態を顧みない姉や妹の振る舞いに頭を悩ませる。そんな中、以前別れを告げた前川から再会を望む手紙が届く。新子は前川の熱情と、彼が自身の家庭や周囲の非難を顧みず関係を続けようとする姿勢に動揺しつつも、次第にその激しい愛に抗えなくなっていく。二人は社会的な倫理や周囲との軋轢を覚悟の上で、自らの感情に従い共に歩む決意を固めていく。

菊池寛

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金を売る

一

七月、もうすっかり夏であるべきはずだのに、この三日ばかり、日の目も見せず、時々降る雨に、肌寒いような涼しさである。

今も、小雨が降っている。だが空はうす白く、間もなく雨も降り止みそうな光が、ただよっている。

新子は、ぼんやり二階の居間から、外を眺めている。

路次の水たまり、黒い小猫がぴょんぴょんと水溜をさけて、隣の生垣の下をくぐった。茶色の雨マントを着た魚屋が、自転車に乗って来て、共同水道のわきで、雨にぬれながら、切身を作り始めた。

豆腐屋のラッパ、まだ午前なのである。

「あーあ!」新子は、かるい欠伸をした。

とたんに、階段の下から、甘えかかった、

(新子姉さまア!)という声が、弾み上り、ドタドタとかけ上って来る足音がして、勢いよく襖が開いた。

あまり成育しない前に、熟れてしまった果物のような、小柄な、身体全体が、ピチピチした――深々とした眼、小さい鼻、小さい唇の、生々とした新子の妹、美和子である。

「何よう!」新子は、無愛想に、広い聡明な額のうすい細い眉をひそめて、そちらを振りむいた。下顎骨が形よく精巧に発達していて、唇が大きかった。のどかそうな、それでいてひどく謎めいている大きな目が、無愛想な言葉を、やわらげるように、ニヤニヤ妹へ笑いかけていた。

「ストッキングが、みんなどれも満足なのがなくなっちゃったのよ。」

「日曜くらい、お家にいらっしゃいよ。それに、もうご飯よ。雨は降っているし……」

「だってえ、家にいたら、呼吸がつまりそうなんですもの。渡辺さんとこへ行くって約束してあるんですもの。一時の約束よ、もう支度しなければ、遅くなるわ。」

「じゃ着物になさいよ。」

「意地わるっ! こんなに、ちゃんと着てしまっているのに――」クリーム色のピケで、型ばかりはひどくハイカラだが、お手製らしいワンピースを、大仰に手を展いて見せた。その胸に、大きな乳鋲のように正確な半球が二つ、見事に盛り上っていた。

「少しくらいの穴、かがってはいていらっしゃいよ。」

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