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TORENDIA

島原心中

本文約14,200字 ・ 読了時間 約29分

あらすじ(AIが作成しました)

京都の島原で起きた心中事件を、検事時代の経験として語る。かつて検事であった語り手は、島原の寂れた遊廓で発生した心中現場へ臨検に向かう。そこで、倒れている女の遺体から指輪を奪おうとする楼主に憤り、指輪を買い取って遺体に捧げる。本作は、華やかな伝説とは裏腹な遊廓の惨状や、人間の執着と死者への哀れみを交錯させながら、法律の専門家である検事の視点から法治国における人間生活のあり方を描く。

菊池寛

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自分は、その頃、新聞小説の筋を考えていた。それは、一人の貧乏華族が、ある成金の怨みを買って、いろいろな手段で、物質的に圧迫される。華族は、その圧迫を切り抜けようとしてく。が、いたため、かえって成金の作っておいた罠に陥って、法律上の罪人になるという筋だった。

自分は、その華族が、切羽詰って法律上の罪を犯すというところを、なるべく本当らしく、実際ありそうな場合にしたかった。通俗小説などに、ありふれたような場合を避けたかった。自分は、そのために法律の専門家に、相談してみようと考えた。

自分は、頭の中で、旧友の中で法学士になっている連中を数えてみた。高等学校時代の知合いで、法学士になっている連中は、幾人もいることはいたが、郵船会社にはいって洋行したり、政治科を出て農商務省へ奉職したり、三菱へはいっている連中などばかりが思い浮んで、自分の相談に乗ってくれそうな、法律専門の法学士はなかなか思い当らなかった。その中に、ふと綾部という自分の中学時代の友人が、去年京都の地方裁判所をよして、東京へ来て、有楽町の××法律事務所に勤務していることを思い出した。上京当時、通知のハガキをくれたのだが、その××という有名な弁護士の名前が、不思議にはっきりと、自分の頭に残っていたのである。

自分は、綾部が、三高にいたときに会って以来、六、七年ぶりに、彼を訪ねた。彼は、学生時代と見違えるほど、色が白くなっていた。そして、三、四年の間検事をやっていた名残りが、澄んだ、そのくせ活気のない、冷たい目のうちに残っていた。彼は、快く自分を迎えて、自分の小説の筋に適合するような犯罪を考えてくれた。刑法の条文などをあちらこちら参考にしながら、かなり工夫を凝らしてくれたのである。その上に、彼はこんなことをいった。

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