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TORENDIA

方子と末起

本文約11,200字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

療養所にいる方子は、遠く離れた地で暮らす愛しい妹分の末起へ手紙を綴る。末起の家庭では四年前に母親が刺殺される事件が発生し、傍らにいた祖母は心身を病んで意思疎通を絶っていた。末起が直面する不可解な出来事に疑念を抱いた方子は、髪の毛を用いた鍵の開閉トリックを見抜き、事件の背後に潜む恐るべき脅威を指摘する。方子は末起に早急な避難を促し、二人がともに過ごす未来を夢見て、愛と信実を込めて切実な警告を伝え続ける。

小栗虫太郎

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一、髪を切られる少女

(方子からの手紙)

末起ちゃん、お手紙有難う。

ほんとうにお姉さまは、末起ちゃんのために二年越しの敷布のうえがすこしも淋しくはありません。

行くんですってね……? まい日末起ちゃんは学校の裏庭へ行って、やまももの洞に彫ったあれを見ているそうね。

あたくしも、あなたと散歩した療養所裏の林の、白樺の幹を欠かさず見ています。

一つは、あたくしが四年あなたが二年のとき、もう一つは、それから一年経った先達っての話ね。そして孰っちにも、あなたとあたくしの、頭文字が刻んである。

恋しい人、たがいに離したくない、懐かしい人……。

ところが、今日末起ちゃんのお便りをみますと、あたくしの名を、刻んだほうの切り口から樹液が湧きだして、あなたのほうへ、涙のように流れていたとかいう話。

それであなたは、もしやあたくしに変りごとがあったのではないか、それとも、自分の足らなさからあたくしを泣かせたのではないかと、まるで、涙ぐんだような詑び心地で――かえって、あたくしのほうが泣かされてしまいました。

でも、大丈夫よ。

末起ちゃんが、護ってくれるあたくしに、なんの変りがあるもんか。熱線も、近ごろでは良く、希望が持てて来ました。だけど、ひところからみるとたいへんに瘠せて、いま、末起ちゃんが抱いたら羽毛のような気がするでしょう。

だけど、いいの……心配しないでね。

あたくしは、もし淋しくなったら死んでしまうでしょうが。まい日、末起ちゃんが来てくれるのに、死ねるもんですか。あたくし昼間は、強いてなにも考えずに眠りませんけれど、夜は、月明をえらんで里から里へとわたり、末起ちゃんの寝顔をそっと見てくるんですのよ。そして末起ちゃんも、おなじなのを、ようくあたくし知っています。

何故でしょう。なぜ二人は、こんなに愛しあうんでしょう

それはね……なぜ太陽はかがやき子供は生れるかと、尋ねられるように、答えようがありますまい。あたくしも、ただ愛するから愛するとしか、いえません。おたがいに、女学校の二年と四年で知り合って、一年後には、あたくしのほうが療養所へ来てしまった……それだのに、かえって、末起はあたくしとともに病んでくれる。

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