本文へ移動
TORENDIA

二人町奴

本文約9,600字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

浅草観世音境内で、深見十三郎率いる浪人組と土岐与左衛門率いる浪人組が、鞘当てから端を発し一触即発の構えを見せる。緊迫した対立の最中、吉原から奉納される巨大な釣鐘が通りかかる。事態を重く見た釣鐘弥左衛門が割って入り、両者を収める。後日、不公平な政治への憤りと、水野十郎左衛門による藩隨院長兵衛の惨殺に対する無念を抱えた藤兵衛は、将軍の面前で自身の腹を切り、その忠義と気迫をもって町奴の心意気を世に示し、権力の不正を正す契機を作る。

国枝史郎

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 12

1

「それ喧嘩だ」

「浪人組同志だ」

「あぶないあぶない、逃げろ逃げろ」

ワーッ[#「ワーッ」は底本では「ワーツ」]と群衆なだれを打ち、一時に左右へ開いたが、遠巻きにして眺めている。

浪人組の頭深見十左衛門、その子息の十三郎、これが一方の喧嘩頭、従うもの二三十人、いずれも武道鍛練の、度胸の据わった連中である。

その相手は土岐与左衛門と、その一味の浪人組、その数およそ三四十人。

おりから春、桜花の盛り、所は浅草観世音境内、その頃にあっても江戸一の盛り場、しかも真昼で人出多く、賑わいを極めている時であった。

「あいや土岐氏」と十三郎、ヌッ[#「ヌッ」は底本では「ヌツ」]とばかりに進み出た。

年この時二十八歳、色白く美男である。その剣道は一刀流、免許の腕を備えている。

「過日我らが組下の一人、諸戸新吾と申す者、貴殿の部下たる矢部藤十殿に、鞘当てのことより意趣となり、双方果し合い致したるところ、卑怯にも矢部殿には数人を語らい、諸戸新吾を打ち挫き、恥辱を、与えなされたため、諸戸は無念を書き残し、数日前に腹切ってござる。以来我ら貴殿に対し、矢部殿お引き渡し下さるよう、再三使いをもって申し入れましたが、今になんのご返事もない。組下の恥辱は頭の恥辱、今日ここで偶然お目にかかった以上、貴殿を相手にこの十三郎単身お掛け合い致しとうござる。土岐氏、即座にお答え下され。さあ矢部殿を渡されるか? それともビッシリお断わりなさるか? 渡されるとあればそれでよい。当方にて十分成敗致す、渡されぬとあっては止むを得ぬ。貴殿と拙者この場において、尋常の勝負、抜き合わせましょう! いかがでござるな、さあ、ご返答!」

凜とばかりに云い入れた。

「お気の毒ながらお断わりじゃ」

こう云ったのは与左衛門。年の頃は四十五六、頬髯の濃い赤ら顔、上背があって立派である。

国枝史郎の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本