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TORENDIA

荒天吉日

本文約170,900字 ・ 読了時間 約342分

あらすじ(AIが作成しました)

大東亜戦争下、渋谷区外縁の住宅地で暮らす十一軒の隣組を舞台に物語は展開する。土地の地主である穏やかな萱野十吉や、勅任官である楯凡児ら、背景の異なる人々が集うこの界隈で、戦時生活の試練が繰り広げられる。登場人物たちは戦争という嵐の中で、それぞれが自らの生き方を模索し、日常の苦難や努力を通じて、国民としていかに戦うかを体得していく。戦時下の厳粛な生活の中で、彼らの力強い生活が始まるまでを描く。

岸田國士

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まへがき

「荒天吉日」とは、別にたしかな出典のある言葉ではなく、ふと思ひついて、こんな標題にしたのである。読んで字の如く、天気が悪くてしかも目出たい日といふ意味、いはゆる神風の吹く日などは、その最も著しい例であらう。

しかし、私は、この物語のなかで、決して神風そのものをあつかふ意思はない。たゞ、戦ふ日本の姿をぢつと見つめ、国民一人々々の希望と努力とを厳しく省みるとき、昔からいはれてゐる「艱難汝を玉にす」とか「苦は楽の種」とかいふやうな教訓ではもう間に合はぬ、もつと切迫した凄まじい叱咤の声を聞かねばならぬやうな気がするのである。

悪徳はもちろん赦し難い。けれども、悪徳が罰せられる話は私はじめ聞き飽きてゐるし、今は、戦時生活のその日その日を尊い試煉として、専心銃後の護りを固めようとしてゐる善良なある種の人々の上に、神意の如く一陣の嵐が捲き起つて、運命は彼等の欲する道を歩ましめず「感傷」と「理窟」が無残に吹き飛ばされて、そこにはじめて、彼等の力強い生活――即ちめでたき生活が創められるといふ話をしてみたい。

小説は、作り話ではあるが、決して、嘘の話であつてはならぬ。だから、実際はかうではないけれども、まあさういう風にいつておくのだ、といふ式の話ぐらゐ小説としてつまらぬものはない。現在の小説は、いくぶん啓蒙とか宣伝とかの役目をつとめなければならぬとされてゐるが、啓蒙も宣伝も真実を蔽ひ、嘘を伝へることではなく、私の信ずるところでは、国民が知らなければならぬことを十分に腹に入れさせることであると思ふ。

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