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TORENDIA

長谷川二葉亭

本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

長谷川二葉亭の人物像と文学的軌跡を論じる。明治文学史上に名高い『浮雲』を著した後、二十年もの沈黙を守りながら翻訳を手掛けた氏を謎の人物として描き出す。再度の創作である『その面影』に漂う人生の陰惨な哀愁や、執筆に対する氏自身の苦悶と告白を通じて、その矛盾した性格と文学に対する姿勢を考察する。また、氏が明治革新期に創始した新文体の特質や、深い魅力を持つ独特の口語体、そして文学に対する真摯な弱さを率直に語る姿を丹念に綴る。

蒲原有明

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🎧 長谷川二葉亭 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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長谷川二葉亭氏にはつい此あひだ上野精養軒で開かれた送別會の席上で、はじめてその風に接したぐらゐであるから、わたくしには氏に對して別に纏つた感想などのありやうもない。だが、質素な身なりと、碎けた物言ひぶりと、眉根に籠つた深く暗い顰みと、幅のある正しい肩つきと、これだけがわたくしの二葉亭氏から最初に受けた消し難き印象である。この印象のうちにも、仔細にたづねて見れば、二葉亭氏の半生の謎がどこかに隱されてゐるやうに思はれる。

二葉亭氏は實際謎の人と云つてよいであらう。今から二昔も前にあの名高い「浮雲」を書いた。明治文學史上の謎がこゝに始まつたのである。新文藝の曙光だと手早く云つてしまへばそれまでの事であるが、それにしては餘りに陰氣な曉の光景ではなかつたらうか。それから一昨年「その面影」が出るまでには凡そ二十年を經過してゐる。隨分思ひ切つて長かつた沈默である。これがわが文壇に比類のない沈默であるのは言ふまでもない。この間二葉亭氏には露國物の飜譯を除いて、その外には一篇の創作もなかつたのである。それにも拘らず二葉亭氏の名は漸く重きをなした。

ツルゲーネフと二葉亭氏、露西亞氣質と長谷川氏と、この二つを繋いで世間ではいろいろと推測した。氏に志士の風格があつたことは事實である。然しわたくしはそれに就て直接知るところがない。唯わが文壇が二葉亭氏に期待したのは、露國物の飜譯のみではなかつたと云へば足りるのである。二葉亭氏は露國作家の影ではなくて、矢張何となく人を威壓する二葉亭氏であつた。この沈默ならぬ沈默の間に、華やかな文藝界の革新と運動とが幾度か起つて幾度か仆れたが、二葉亭氏はいつも遠く離れてゐて、しかも近くわれわれの上に臨んでゐるやうであつた。

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