TRENDIA CLASSIC

エミリアンの旅

豊島与志雄

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ヨーロッパから西アジヤにかけて、方々にちらばつてる一つの民族があります。何かの職業について、一つ処に住居を定めてる者もありますが、多くは、各地をわたり歩いてる流浪の者です。それで、数は少いけれど、到るところに見かけられます。彼等は自分でロマ人だとかコラ人だとかいつてゐますが、フランスではボヘミアンと呼ばれ、イタリヤではツンガリーと呼ばれ、イギリスではジプシーと呼ばれてゐます。――日本には、イギリス語のジプシーといふのが一番よく知られてゐます。

そのジプシーのうちに、エミリアンといふ少年がありました。両親に死に別れて、たつた一人で、方々をわたり歩いてゐました。どこか気に入つたところに住居を定めるつもりでしたが、その気に入つたところがなかなか見当りませんので、のんきな旅をつづけてるのでした。荷物といつては、美しい縞リスのはいつた小さな籠と、バイオリンだけでした。時には旅芸人の仲間にはいつたり、時には何か臨時の仕事にやとはれたりして、そして大抵は一人で、リスに芸をさしたりバイオリンをひいたりしてお金をもらひ、あてもなく旅をしてゐました。りこうで、のんきで、朗かな少年でした。

この少年エミリアンの旅の話を少し致しませう――

一 盗賊に出あふ話

一  フランスの東部の山の中の小さな町に、市がたつて、近在から農夫たちがたくさん集り、賑かな一日が暮れた、その晩のことです。エミリアンは広場で、縞リスに車廻しの芸をさしたり、バイオリンをひいたりして、だいぶお金をまうけて、町はづれの宿屋にとまりました。宿屋にはおほぜい客がありましたし、彼は少年でしたから、二階の隅の物置みたいな室に入れられました。

夜なかすぎになると、市の賑ひにみんな疲れて、農夫たちは帰つていき、町人たちは寝こみました。エミリアンもぐつすり眠りました。

そのしいんとしたなかで、夜明近い頃、三人の盗賊が宿屋をおそひました。市の後ですから、宿屋にはたくさんお金がたまつてゐますし、お金をもつた客もとまつてゐますので、それをめざしたのです。

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