TRENDIA CLASSIC

市郎の店

豊島与志雄

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一  ある港町の、港と停車場との間の、にぎやかな街路に、市郎の店はありました。店といっても街路の上の屋台の夜店で、その夜店のほんのかたはしなのです。

そのへんは、船や汽車の旅人がたくさんゆききするところで、また、町の人がたくさんであるくところです。それで、夜になると、いろいろな夜店がたちならびました。

市郎の夜店は、市郎のお母さんが出していたものです。いろいろな絵葉書や絵本や玩具などを売っていました。ところが、お母さんが病気になって、夜店に出られなくなりましたので、夜店仲間の、あるおかみさんに、一時そこを預ってもらっているのでした。市郎のお父さんはもう亡くなっていました。

その夜店のかたはしに、市郎は自分の貝殻を並べたがりました。

「お母さんの店だから、僕が自分の品物を出しといて、監督に行くんだよ。」と市郎はいいました。

お母さんは弱々しい咳をしながら、頬で笑い、眼でにらんで、いいました。

「生意気なことをいうもんじゃありません。」

それでも、市郎がしきりに夜店に出たがりますので、お母さんは、店を預ってるおかみさんと相談して、土曜日と日曜日との晩だけなら――とゆるしてくれました。

市郎は額をたたいて、得意になりました。もう一人前の大人になった気がしました。そして土曜日の晩と日曜日の晩、夜店のかたはしに多くの貝殻を並べて、そこにがんばっていました。

その貝殻というのは、船乗りをしているおじさんからもらったものでした。市郎は小さい時から、外を遊びあるくのがすきで、メンコやベーゴマの遊びなどにふけって、お母さんにたびたび小言をいわれました。それから、船乗りをしているおじさんの話をきき、珊瑚礁のことや貝殻ばかりの浜辺のことなどをきいてからは、メンコやベーゴマよりも、いろいろな貝殻を集めるのが面白くなりました。おじさんは南洋方面へ行く貨物船に乗りこんでいましたので、市郎に頼まれるとさまざまの貝殻を持ってきてくれました。

平たいのや円いのや尖ったのや、大きいのや小さいのや、白いのや赤いのや、青いのや緑のや、いろんな模様のはいってるのや、実にさまざまなものでした。

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