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TORENDIA

陽に酔つた風景

本文約7,200字 ・ 読了時間 約15分

あらすじ(AIが作成しました)

鶴子からの手紙を受け取った「彼」は、祭りのある村へ向かう軽便鉄道に乗る。道中で脱線を繰り返すのどかな汽車に揺られながら、再会を前に期待と不安を抱き胸をときめかせる。到着後、馬車で迎えに来た彼女と合流した二人は、祭りへ帰る道すがら、手綱を放して馬の歩みに身を任せる。陽の光に満ちた風景の中で二人は互いの気持ちを確かめ合い、冗談を交えながら目的地である村の森へと向かっていく。

牧野信一

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🎧 陽に酔つた風景 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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一

鶴子からの手紙だつたので彼は、勇んでY村行の軽便鉄道に乗つた。勇んで――さうだ、彼は、ちよつと自分の姿を傍から眺めて見ると、あまり勇みたち過ぎてゐる自分が癪に触るほどだつた。

何とまあ自分は気の毒な慌て者だつたことだらう――彼は辛うじて間に合つた汽車の窓に腕をのせて、真盛りの莱畑を眺めながら、あんな手紙位ゐでこんなにも一個の人間が有頂天になるものか! などゝいふ風なことを自分に対して何といふこともなしに皮肉に考へたりしたが、そんな想ひは窓先を寄切る白い花片のやうに一瞬の間に消え去せて、凄じい車輪の響が、そのまゝ凄じく彼の胸で歓喜の響を挙げてゐるだけだつた。

この汽車の時間に間に合せるまでの彼の騒ぎといつたらなかつた。はじめは学校の制服で出かけたのだつたが、不図思ひ直すと、彼は大いそぎで、とつて返して、新しい春の背広服に着換へたりしたのである。腕時計を見ると、この汽車に十分しか間がなかつた! 彼は、ワイシヤツ一枚で、上着を抱へたまゝ外へ飛び出すと、靴音荒く奔馬のやうにポンポンと走つて停車場に駆け込んだのだつた。そして、笛が鳴つて、徐ろに滑り出した車に鳥のやうに飛び乗つたのである。

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