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TORENDIA

鸚鵡の思ひ出

本文約2,100字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

アメリカ娘のFが飼う鸚鵡のグリツプに言葉を教えようとする「私」と、それを目撃して追求するFのやり取りを描く。言葉を覚えない怠け者の鸚鵡を介した二人の関係性や、Fが帰国した後の「私」の心中を綴る。本書は、記憶の中の鸚鵡を通じて、過ぎ去った日々や離れた友人を回想する複雑な心情をたどる物語である。

牧野信一

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🎧 鸚鵡の思ひ出 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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一

「いくら熱心になつたつて無駄だわよ。――シン。鸚鵡だからつて必ず言葉を覚えるときまつてはゐまいし。」

アメリカ娘のFは、さう朗らかに笑つて私の肩を叩いた。足音を忍ばせて彼女は私の背後に近寄つたのだらう、声で、私は初めてFに気づいて振り反つた。

「僕は何もグリツプに言葉を教へようとしてゐたんぢやないさ。」

グリツプと称ふのはFが飼つてゐる此の鸚鵡の名前である。

「お前はまア何といふ嘘つきだらう! 教へようとなんてしてゐないツて? 妾はさつきからちやんと鍵穴から覗いて見てゐたんだよ。お前はグリツプの前で、指を出したり、顔を顰めたり、独り言を呟いたり、疳癪を起して二ツの拳を震はせたりしてゐたぢやないか! 今日ばかしぢやない。きのふもおとゝひも、いや一週間も前から毎日毎日! さア白状なさい、何といふ言葉をお前はグリツプに教へようと試みてゐるんだか!」

「僕は芝居がゝつた言葉や動作のとりやりが何よりも嫌ひな性分なんだ。子供の時から犬一匹飼つたことのない者だ。鸚鵡に言葉を教へようなんていふ可愛らしい心は僕は持たないよ。」

私はこの上ツ調子の態度が気に喰はなかつたので、子供の時犬を飼はなかつたわけぢやないのだが、さう言葉を誇張して、そして殊更に憂鬱気な態度を示した。

「グリツプといふ名前はお前に返さう。」Fは仏頂面をして叫んだ。

「勝手におし。返されても僕は決して不名誉には思はないよ。」

厭だと云ふのに、どうしても鸚鵡に名前を付けて呉れと云つてFは承知しないので、いつだつたか私は仕方がなしにグリツプと称ふ名前を与へたのだつた。中学の一年か二年の時に習つたチヨイス読本の中にあつた“LAZY RAT”といふ章を私は覚えてゐた。主人公の若い鼠の名前がたしかグリツプといふんだと思つた。Fは、いつもこの鸚鵡のことを「怠け鸚鵡」と叱つて、何を教へても少しも覚えないと滾してゐたので、私はさういふ名前を与へたのだつた。

二

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