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TORENDIA

湖の夢

本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

医学士である友人から富士五湖巡りのドライブに誘われた「わたし」は、二十年前の記憶を呼び起こす。かつて本栖村で怪我をして滞在した際、小間使の娘・るいと過ごした日々や、大ムラサキ蝶を追いかけた冒険、湖畔で体験した淡い思い出が、現在の旅路と重なり合う。本書は、過ぎ去った青春の幻影に酔いしれながら、当時の面影を求めてかつての地を再訪する男の心情と、友人との遊山を描く。

牧野信一

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一

友人である医学士のF君が、オースチンを購入したので、案内車を先に立てながら富士の五湖をまはつて来ようと、或る晩わたしの部屋を訪れた。神経科の専攻であるF君は、かねがねわたしの病状については深い留意を払ひ、年来にわたつて投薬をつゞけてゐて呉れる人であつた。ともかく文字のことは忘れるんだね、花をつくることをすゝめるよ――F君は切りとさう云つて、然し酒は寧ろ結構だと寛大であつた。だからわたしは、F君とだけはいつも平気で飲み、F君に救けられて帰る晩が多かつた。F君は、職業柄決して酩酊が適はぬと滾し、わたしの忽ちなる陶酔状態を羨ましがつたが、わたしにして見ると、容易に酔はぬといふ大酒家の方が豪傑めいてゐて頼もしく、羨望のかぎりであり、どうかして自分も紳士的なる酒の片鱗でも望みたいと思はぬことはなかつたが、いつもわたしは時と場所の差別もなく駄目であつた。

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