鍬と鎌の五月
本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
弾圧により農民組合が壊滅した香川県の農村。かつての活動家である西山は、五月一日の朝、仲間たちと示威運動を企てるが、尾行するスパイの妨害により計画は頓挫する。薪積みを強要された三人は、居眠りをするスパイの頭上に、高く積み上げた薪の山を崩し落とす。抑圧された日々の中で、彼らは束の間の抵抗を試み、その行為をもってメーデーのささやかな鬱憤を晴らす様子を描く。
💰 この本を応援する(投げ銭)
農民の五月祭を書けという話である。
ところが、僕は、まだ、それを見たことがない。昨年、山陰地方で行われたという、××君の手紙である。それが、どういう風だったか、僕はよく知らない。
そこで困った。
全然知らんことや、無かったことは、書くにも書きようがない。
本当らしく、空想で、でっち上げたところで、そんなものには三文の値打ちも有りゃしない。
で、以下は、労働祭のことではない。五月一日に農村であったことである。
香川県は、全国で最も弾圧のひどい土地だ。第一回の普選に大山さんが立候補した。その時、強力だった農民組合が叩きつぶされた。そのまゝとなっている。
なんにもしない、人間を、一ツの警察から、次の警察へ、次の警察から、又その次の警察へ、盥廻しに拘留して、体重が二貫目も三貫目も減ってしまった例がいくらでもある。会合が許されない。僕の友人は、労働歌を歌っていて、ただ、それだけで一年間尾行につき纒われた。
ちょっと、郷里の家へ帰っているともう、スパイが、嗅ぎつけて、家のそばに張りこんでいる。出て歩けば尾行がついて来る。それが結婚のことで帰っていてもそうなのである。親爺の還暦の「お祝い」のことで帰っていてもそうなのである。嚊を貰って、嚊の親もとへ行っていると、スパイは、その門の中へまでのこ/\はいって来る。金儲けと財産だけしか頭にない嚊の親や、兄弟が、どんな疑心を僕に対して起すかは、云わずとも知れた話である。スパイは、僕等の結婚や、お祝いごとまでも妨害するのだ。僕は、若し、いつか親爺が死んだら、子として、親爺の霊を弔わなければならない。子として、親爺の葬儀をしなければならない。その時にでも、スパイは、小うるさく、僕の背後につき纒って、墓場にまでやって来るだろう。
西山も、帰るとスパイにつき纒われる仲間の一人だ。その西山が胸を悪くしてO市から帰っていた。
彼は、もと、若手の組合員だった鍋谷や、宗保や、後藤の顔を見た。それから彼等の小学校の先生だった六十三の、これも先生をやめてから、若い者よりももっと元気のある運動者となった藤井にあった。
どの顔にも元気がない。