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TORENDIA

屋根の上の黒猫

本文約610字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

昭和九年の夏、弟の危篤を知らせる電報を受けた横井春野は、夜中に千葉の市川へ駆けつける。家の門口に立つと、屋根の上に佇む一匹の黒猫が目に入る。横井の家では古くから不幸の前兆として黒猫が現れる言い伝えがあり、過去の家族の不祥事とも結びついていた。不安を感じた横井は小石を投げて猫を追い払おうとするが、猫は屋根から離れず悲しげに鳴き続ける。弟の危篤状態という極限の状況下で、横井は猫の存在に翻弄されながら見守る。

田中貢太郎

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🎧 屋根の上の黒猫 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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昭和九年の夏、横井春野君が三田稲門戦の試合を見て帰って来たところで、その時千葉の市川にいた令弟の夫人から、

「病気危篤、すぐ来い」

と云う電報が来た。横井君は令弟の容態を心配だから、夜もいとわずに市川へ駈けつけた。そして、令弟の家の門口を潜ろうとして、何気なく屋根の上へ眼をやったところで、其処に一匹の黒猫がいて、それが糸のような声で啼いていた。瞬間横井君は、

「しまった」

と思った。それは横井君のお父さんがまだ壮い比、酒興のうえで、一匹の黒猫を刺し殺したことがあったが、それからと云うものは、横井君の家には、何か不幸なことでもあると、きっと黒猫が姿をあらわした。お父さんが歿くなった時にも、また四人の兄弟をはじめ二人の小供の歿くなったときにも、やはり黒猫が来て屋根から離れなかった。横井君はそのつどそれを見ているので、

「この野郎」

と云って、そこにあった小石を拾って投げつけた。すると猫は屋根の向う側へ姿をかくしたようであるから、家の中へ入ろうとすると、すぐまた出て来て淋しそうに啼いた。横井君は令弟のことが気になるので、もいちど小石を投げつけておいて家の中へ入った。と、令弟は気息えんえんとして、今にも呼吸を引きとろうとしているところであった。

横井君は猫が気になるので、また外へ出て猫を追ったが、猫は依然として屋根の上から離れなかった。そして、暁けがたになってその猫の声がぴたりとやむと同時に、令弟が呼吸を引きとった。

完

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